本音と向き合う辛さを描く…人間の“汚い部分”も浮き彫りにした『海のはじまり』が伝えたかったことは? 考察&評価
text by 菜本かな
目黒蓮主演の月9ドラマ『海のはじまり』(フジテレビ系)は、名作『silent』の制作チームが再集結し、“親子の愛”をテーマにした完全オリジナル作品だ。人と人との間に生まれる愛と、そして家族の物語を丁寧に描く本作の最終話の考察レビューをお届けする。(文・菜本かな)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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【著者プロフィール:菜本かな】
メディア学科卒のライター。19歳の頃から109ブランドにてアパレル店員を経験。大学時代は学生記者としての活動を行っていた。エンタメとファッションが大好き。
「誰かを幸せにする人生」ではなく「自分が幸せになれる人生」を
『海のはじまり』(フジテレビ系)は、最終回もやっぱり辛かった。前向きな終わり方ではあったが、これをハッピーエンドと呼んでいいのかは、分からない。ただ、「フィクションくらいは、夢のあるものを観たい」と思う人にとっては不向きだったかもしれないが、個人的にはこのくらいリアルが詰まっている作品も好きだ。
このドラマの登場人物たちは、自分のことばかりを考えてしまうような“汚い部分”も、視聴者にさらけ出してくれた。だから本音で向き合うと、わたしは最後まで観てもやっぱり水季(古川琴音)のやり方を賞賛することはできない。
そして、津野(池松壮亮)や朱音(大竹しのぶ)も、大切な人を亡くしてしんどいからといって、夏(目黒蓮)に八つ当たりしすぎでは? と思ってしまう。
また、一般的なドラマなら、弥生(有村架純)は夏と別れずに、海(泉谷星奈)のお母さんになる道を選択していたはずだ。その方が、物語的に美しいし、“心優しいヒロイン”に見えるから、視聴者の涙をそそる。
しかし、脚本家・生方美久は、そうはしなかった。「他人に優しくなりすぎず、物分かりのいい人間を演じず、ちょっとズルをしてでも、自分で決めてください。どちらを選択しても、それはあなたのためです」という台詞を書き、弥生に“誰かを幸せにする人生”ではなく、“自分が幸せになれる人生”を選ばせた。