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『海のはじまり』が持つ奥深い魅力

『海のはじまり』第12話より ©フジテレビ
『海のはじまり』第12話より ©フジテレビ

 思い返せば、本作は登場人物のセリフや行動の真の意味が後になって分かる展開が特に多かった。夏を突っぱねるような言動が多かった津野(池松壮亮)は、元来とても優しい性格だし、非の打ち所がない自立した女性かに見えた弥生にも、複雑な生い立ちや子どもを堕ろしたという悲しい過去があった。その時に見える部分はあくまでもその人の一面に過ぎないということがよく分かる。

 それは水季にも当てはまる。夏にとってなんでも自分で決断するとても強い女の子に見えた水季も、その都度悩みぬいて答えを出していたし、後になって自分の選択を悔やんだこともあったはずだ。

 弥生に夏との別れを決断させたのも、水季の手紙だった。結果として水季が、夏と弥生をコントロールしたようにも見えるが、水季なりに悩みぬいて書いたことは容易に想像できる。ただあえて言うのなら、生きている間にもっと夏に頼ってほしかった…。
 
 毎週のように議論を巻き起こした『海のはじまり』。議論の中心は主に水季というキャラクターをどう評価するのかを巡るものだったと言っていいだろう。筆者もまた、多くの視聴者と同様、最後まで水季に共感できなかった。しかしながら、一切の謎を欠いた単純平明な登場人物と口当たりのいいストーリーによって視聴者から共感を得るのがドラマの常套手段だとしたら、『海のはじまり』は確実に従来のドラマからはみ出る“何か”を有していた。

 共感を呼ぶかわりに、視聴者をもどかしい気持ちにさせ、ざらっとした違和感を残す。水季というキャラクターが賛否両論を巻き起こしたという事実は、取りも直さず、本作の奥深い魅力を形成しているものでもあるだろう。

 上述したように『海のはじまり』では、登場人物のセリフや行動の意味が後になって分かる、といった構成が特徴的だった。その点、水季が手紙にしたためた言葉の真意も、視聴者がそれぞれの生活を営む中で、いつかわかる日がくるかもしれない。その点、本作の結末は、「面白い」「つまらない」といった二元論に収まらないこの稀有なドラマにふさわしいものだったように思えてならない。

(文・野原まりこ)

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