どれだけ尽くしても“外野”である他ない池松壮亮“津野”の苦しみ
『海のはじまり』のなかで、津野のことがずっと苦手だった。でも、それはおそらく夏や弥生(有村架純)の視点から、彼を見ていたから。
津野の立場になって考えてみると、とてつもなくやるせない。もちろん、津野も見返りがほしくて水季や海を助けていたわけではないはずだ。ただ、水季が死んだ瞬間に、いきなり外野に追い出されて、海の存在さえも知らなかった夏が“内野です”みたいな顔でいると思うと。つい、津野の気持ちに感情移入してしまいそうになる。
しかし、津野のゴールとはどこにあるのだろう。水季の夫になること? それとも、夏の代わりに海の父親になること? おそらく、自分でもわかっていないからこそ、苦しんでいるのではないだろうか。
水季に対する感情が恋愛なのか、それとも仲間愛なのかはまだ明らかになっていないが、夏を敵視しまくっている点から読み解くと、好意を寄せていた可能性が高い気がする。
津野は、「今さら、南雲さんと向き合おうとするの、綺麗事ですよね。死んだんだから」と夏に言っていた。でも、水季の生前に夏が現れたとしても、同じように敵視していたのではないだろうか。
夏が一生懸命に編んだ三つ編みをほどき、海のヘアスタイルをポニーテールに変えたように。何しらの形でマウントを取っていたように思う。
「月岡さんより、僕の方が悲しい自信があります」
水季が末期だったときのことを振り返るだけで、津野はとても苦しそうだった。
水季を亡くした傷が癒えていないなか、いちばん会いたくなかった夏に会うことになり、海が夏に懐いている姿を間近で見なければいけない。海が、夏にまったく懐かなければよかったのに。「夏くん、怖い」なんて言って、自分に助けを求めてくれればいいのに。そんなことを思った瞬間もあったはずだ。
でも、水季の夫でもなく、海の実の父でもない津野は、過去にどれだけ尽くしてきたとしても“外野”になってしまう。彼は、その事実をどうにか受け止めて、歩き出そうとしている最中なのだろう。