夏が本音をさらけ出せた理由
ただ、ふだん感情をあらわにしない夏が、基晴の前では怒りに任せて椅子を蹴り飛ばしたり、「俺だって悲しいのに」と子どものように泣きじゃくってみたり。初めて、“物分かりがいい夏”ではない姿を見せることができたのは、基晴が実の父親であり、他人に近い存在だったからだと思う。
正直なところ、終盤の基晴の台詞には共感する部分が多かった。
「昔の女が勝手に産んでたなんて、俺だったら無理だな。立派、立派」
「(子どもを産んだということを)隠されてたってのも被害者だしな」
亡くなった人のことをあまり悪く言えないからか、みんな水季(古川琴音)のことを責めようとしない。それどころか、「病気を抱えながらひとりで子どもを育ててすごい」「何も知らなかった夏くんはひどい」なんて、水季を上げて夏を責める人ばかり。
もちろん、水季が「産みたい」と懇願したのに夏がそれを拒否したとか、「責任は取れない」と逃げたとか。それなら、夏が責められるのも分かるが、基晴の言うように知らされていなかった夏も“被害者”の側面があると思う。
思い返せば、夏がバーッと話した鬱憤を、基晴はすべて肯定していた。完全に夏の肩を持ち、一緒になって周囲を責めてくれる。いま、優しすぎる人たちに囲まれて生きている夏は、ちょっぴり性格がひねている基晴と話すことで、心がラクになった部分もあったのではないだろうか。
「その優しいみなさんに支えられて、しんどくなったら連絡しろよ」と基晴に言われたときの夏は、まるで3歳の頃に戻ったかのような、子どもっぽくて、照れくさそうで、今まで見せたことがないような表情をしていた。