弥生が産婦人科のノートに綴った言葉が弥生自身に贈られる
水季(古川琴音)が、“夏くんの恋人”に宛てた手紙には、「他人に優しくなりすぎず、物分かりのいい人間を演じず、ちょっとずるをしてでも自分で決めてください。どちらを選択しても、それはあなたの幸せのためです」と書いてあった。これは、弥生がかつて中絶手術を受けたあと、産婦人科のノートに綴った言葉だ。
この手紙を読むまで、弥生は海のお母さんになろうとしていたと思う。そうじゃなければ、海に「わたしが本当にママになったらうれしい?」なんて、期待を持たせるようなことを聞かないはず。
夏に「(海のお母さんに)なってほしいよ」と言われたときも、「じゃあ、いいんだよ。それで」と返していたし、“2人の幸せ”のために我慢する道を選ぼうとしていたのだろう。
しかし、水季の言葉を受けて、弥生は“自分の幸せ”と向き合い始めた。同じ言葉でも、水季は海のお母さんになることを選び、弥生は海のお母さんにならないことを選んだ…と考えると、胸にくるものがある。
正直、“リアル”に弥生と同じような状況の人がいたら、大抵の人は弥生と同じ選択をするのではないだろうか。どれだけ夏のことが好きでも、亡くなった元カノに嫉妬しながら生きていかなければならないって、あまりにもしんどい。
それに、ふつうなら「元カノの話、しないでよ」と言うこともできるが、水季は海のお母さんなわけで。海と近しい関係になればなるほど、弥生は水季の影を感じることになる。もちろん、話題に出すのを禁ずることなんてできない。
でも、『海のはじまり』は“ドラマ”だから。なんだかんだで、弥生は海のお母さんを始めるものだと思っていた。その方が、物語としても美しいし、夏と弥生のラブストーリーも盛り上がる。
それなのに、“リアル”を追求してヒロインにこの決断をさせた生方美久脚本には、唸らされるばかりである。