意識を失うミヤビと一緒に「会いに行くのに」が歪む
そんな柏木夫婦の姿を目の当たりにし、ミヤビは「記憶をなくしても失われないものがある」と思えた。このまま手術をしなければ、命の危険に晒される可能性もあるミヤビ。それでも彼女は手術を受けないことを決めていた。もし失敗した場合、三瓶が一生その責任を背負って生きていくことになるから。三瓶の心に影を作りたくないのだろう。
一方で、三瓶は光を灯すべく手術の練習に励む。だが、最後にストップウォッチが示した時間は「8分45秒」だった。感情が高ぶっていても落ち着いた口ぶりの三瓶が「くそ!」と思わず声を荒げたことからもその憤りが伝わってくる。
どうか…どうか…と奇跡を願った矢先、ミヤビが三瓶の目の前で倒れた。ミヤビの意識が遠のいていくと同時に、主題歌も強烈なエコーがかかったように歪んでいく。
あいみょんが歌う主題歌「会いに行くのに」は物語との親和性が高く、一筋の希望の光を感じさせてくれる清涼感のある一曲だ。その曲を敢えて歪め、不穏なラストを演出した。おそらくドラマ史上初ではないだろうか。こうした意欲的な取り組みが、観るものの心に長く残り続ける名作を生み出すのだろう。
亡くなった恋人のことを忘れられないという成増(野呂佳代)に三瓶はこう言った。
「脳には内側前頭前野という場所があって。自分と他人を区別する場所なんですけど、大切な人や恋人に関しては、区別しなくなるという報告があります。つまり、その人のことを自分のように感じてしまうんです」
この物語に登場する愛おしいキャラクターたちもきっと、内側前頭前野で私たちと一緒になって一生追い出せないだろう。次週は最終回。彼らの行く末を見届けたいが、名残惜しくて仕方がない。
(文・苫とり子)
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