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セリフじゃ伝えられない感情を映す

『アンメット』第11話より ©カンテレ
『アンメット』第11話より ©カンテレ

 幸せな時間は長くは続かず、突如として終わりを迎える。三瓶がある日目覚めると、ミヤビはうつ伏せの状態で動かなくなっていた。脳梗塞が完成してしまったのだ。三瓶から連絡を受けた星前(千葉雄大)は森(山谷花純)と共にすぐ駆けつける。低体温症を発症しているミヤビの体に触れた瞬間、森の心臓が縮み上がったのを感じた。

 恒温動物は死を迎えると、身体がどんどん冷たくなっていく。だから冷たいと最悪の事態が頭をよぎり、一瞬にしてフリーズしてしまうのだ。Yuki Saito監督は自身のX(旧Twitter)で杉咲が自分の身体をアイスで冷やしていたことを明かした。そのアイデアが森のリアリティ溢れる演技に繋がっているのである。

 不幸中の幸いというべきか、低体温症によって脳が保護され、脳梗塞が完成していないことが判明した。さらに低体温が持続すれば、8分間の血流遮断に耐えられる可能性も浮上し、三瓶は自分が執刀医となってミヤビを手術することを決意。血管は2ヶ所縫う必要があったが、駆けつけた大迫(井浦新)が「両側から縫えばいい。僕が一緒に縫うよ」と申し出る。

 対立してきた三瓶と大迫が手を取り合い、藤堂院長(安井順平)が腹を括った様子で「もし失敗したら、全責任は俺が取る」と手術の許可を出すという一連の展開に思わず胸が熱くなった。

 手術には、助手として綾野(岡山天音)と星前、看護助手の津幡(吉瀬美智子)、麻酔科医の成増(野呂佳代)も参加することに。各分野のプロフェッショナルが一丸となってミヤビを救おうとする様がまるで映画『アベンジャーズ』のようだと話題になった。

 しかし、実際の手術シーンはいつものごとく静かで派手さは全くない。ミヤビの今日を、明日に繋げるため、各々が神経を目の前の作業に注ぐ。オペ室以外で待機する藤堂、森、風間(尾崎匠海)、新井(中村里帆)、麻衣(生田絵梨花)からもセリフはなくとも祈るような願いがひしひしと伝わってきた。

 手術が無事に終わっても、誰も歓声を挙げることはなかった。だが、肩を叩く大迫の手が、マスクから覗くみんなの目が、三瓶に労いと感謝の気持ちを伝えている。人の表情や身振り手振りは、こんなにも雄弁に心情を語るのだ。『アンメット』はそのことに改めて気づかせてくれるドラマでもあった。

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