ミヤビを形づくるモノたち
脳外科医は患者の命を救って終わり、ではない。言語、記憶、思考、判断、知覚といった高次機能を司る脳は、怪我や病気によって損傷すると後遺症が残ることが多い。
脳梗塞の後遺症による失語症で、うまく言葉を発することができなくなった女優。サッカー強豪校のエースだったが、脳障害で左半側無視という重い後遺症が残り、思ったプレイができなくなった高校生。そして、事故で脳を損傷して記憶障害となり、脳外科医であるにもかかわらず看護助手として働いていたミヤビ。
後遺症で、それまで当たり前だったことができなくなる。それでも続いていく日々をどう生きていくか、という大きな選択を迫られる患者に寄り添うのが脳外科医だ。
その一人である三瓶が第1話でミヤビに語った言葉が印象的だった。
「あなたは障害のある人は、人生を諦めてただ生きていればいいと思っているんですか?」「足りない部分は周りがフォローすればいい。当然のことです」
記憶障害を抱えたまま脳外科医として復帰したミヤビは、第5話で記憶障害を抱えたまま助手ではなく術者としてオペ室に立つ。そんなミヤビを全力でサポートするのは、彼女のこれまでをずっと見届けてきた病院の仲間たちだ。
朝目覚めた瞬間に、「あなたは脳外科医で数日後に手術を控えています」と言われたら、どうだろう。手術に向けて練習した成果が体に残っていても、私だったらきっと不安で術者を辞退すると思う。
それでも日記を書いた過去の自分に従って練習を続けてきたミヤビ。そんな彼女に「不安があって当然。でも、私たちはわかってますから」と津幡(吉瀬美智子)は寄り添う。その言葉を受けて、ミヤビは仲間を信じることにしたのだろう。
事故の前から仲が良い“森ちゃん”こと森陽(山谷花純)に頼んで家に泊まってもらい、朝起きた自分に日記を全て読まないように伝えてもらう。森ちゃんの力強い眼差しに自然と涙が溢れた。
記憶障害になってからたくさん苦労したが、医師として患者に寄り添ってきたミヤビ。その努力を森ちゃんも、他の仲間たちも知っている。一人じゃない。
かつてミヤビは「私の昨日は今日に繋がらないし、今日も明日に繋がらない」と言ったが、彼女が積み重ねてきた日々はちゃんと今日のミヤビを形作っている。