タイトルである「アンメット」の意味
ミヤビが山本のために職場まで訪れたのは、自身が記憶障害を抱えているからというのもあるが、それ以前から彼女は人に寄り添う優しさを持っていた。てんかん発作を起こした時、発作性発語で「こうすると影が消えます」と口にしたミヤビ。三瓶は以前にもその言葉を聞いたことがあった。
本作のタイトルである「アンメット」には、直訳すると「満たされない」という意味がある。できた影に光を当てても、また新しい影ができて、満たされない人が生まれてしまう。「どうすれば隈なく照らして、アンメットをなくせるのか。その答えを探してます」と言った三瓶に対し、ミヤビは寄り添いながら「こうすると影が消えます」と言った。
そんなミヤビが、大迫がどこかに当てている光の影に覆われている。「それの何が問題なのかな?」という大迫の一言で、三瓶の張り詰めていた糸が切れた。怒りで唇が震え、感情の高ぶりとともに目からは涙が溢れる。引き算の美学を感じる演出によってフォーカスされる若葉竜也の演技からひと時も目を離すことができない。
てんかん発作を起こしたミヤビの頭を守りながら、「大丈夫大丈夫……」と声をかける三瓶の柔らかい口調。ミヤビとの写真を見ながら、溢れ出てくる涙。2人の過去を何一つ知らなくても、どれだけ三瓶がミヤビを愛していたかが伝わってくる。
そしてミヤビもまた、全ての人を満たしたいという、多くの人が理想論だと吐き捨てるような願いを持つ三瓶の純粋さを愛していたのだろう。その記憶は確かにミヤビの中にあるのに、取り出すことができない。
あまりに切ないが、抗てんかん薬を増やしたミヤビが前日に食べた豚足を覚えていたことで少し希望が見えた。嬉しそうに報告するミヤビに、三瓶が向けた優しい笑顔にまた涙が出てくる。