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櫻井翔の持ち味が存分に活かされた役どころ

『笑うマトリョーシカ』【番組公式Instagramより】
『笑うマトリョーシカ』【番組公式Instagramより】

 対面取材を終えた香苗に、ある人物が接触する。清家だ。清家は「あの鈴木をあそこまで追い詰めたのはあなたが初めてですよ」と、香苗に興味を示す。当然、香苗は警戒するが、清家は驚くほどに気さくだった。普段は取材をする立場である香苗がいつの間にか児童福祉について熱く語っているほど、話を聞き出すのが異様にうまい。

 その姿は、報道番組でキャスターを務める櫻井翔自身の姿とも重なった。人に安心感を与える親しみやすい雰囲気、共感を示すリアクション、穏やかで丁寧な語り口調。櫻井の持つ力が存分に活かされている役柄だ。だが、清家が香苗に「これからも僕を見ていてくださいね」と告げる場面では今までに見たことのない面が覗く。潤んだ瞳が切なげで一瞬ドキッとするのと同時に、どこか不気味にも感じた。そのどっちともつかない絶妙な演技で視聴者の心を揺さぶった櫻井。

 後日、香苗のもとに差出人不明の封筒が届く。その中には、清家の大学時代の論文が封入されていた。それは、アドルフ・ヒトラーとエリック・ヤン・ハヌッセンについて書かれた論文。ヒトラーは第二次世界大戦下、ナチ党を率いてユダヤ人600万人の大虐殺を遂行した。ハヌッセンはそのヒトラーを裏で操っていたとされる人物だ。香苗はこの論文からヒトラーを清家、ハヌッセンを鈴木に当てはめ、鈴木が清家を操って自分の野望を叶えようとしているのではないかと結論づける。そして論文は清家本人から送られてきた“SOS”ではないかと解釈するのだった。

 取材場所で飾られていたマトリョーシカが「清家に似ている」と感じた香苗。その印象通り、清家は開けても開けても同じ顔が出てくるマトリョーシカのように本質が全く見えない。最後の一つになった時、彼はどんな顔を見せるのか。それを見るまで、私たちはこの物語から目を離すことができないだろう。

(文・苫とり子)

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