ミコが犯人を追い詰めるもうまくいかない「すかし」
2人組のインフルエンサー、悪童エクスプレスのよっちゃん(藤原季節)とチョロ(細川岳)。ブレイクするに従って、企業ウケばかりを狙い、ついにはヤラセまでおこなってしまうよっちゃん。それを気に病んで全てを告白しようと迫るチョロを、よっちゃんは生配信中に殺害する。
あれだけ濃いウォッカを足されて気づかないものか? と気にはなったけれど、遺書とサインの漢字の違いに気づいたミコがよっちゃんを追い詰めようとする展開にはちょっと「やられた!」と思った。「予測変換されるよなあ」と思っていたそのままのことを森野が指摘したからだ。
そもそも、「先立つ不孝をお許しくださいの孝です」と伝えるカラオケ店員の、その浮かれ具合やちょっとしためんどくささを土佐兄弟・有輝がうまく演じていたのもよかった。また、漢字の違いの前にもミコは遺書と生配信中の表現の違いを「おかしい」と捉えていた。
その感覚は、ミコが作家だからだろう。脚本と演出でそういった細やかな部分に意識を行き渡らせている感じは、見ていて楽しい。
今回、犯人役を演じた藤原季節はドラマや映画など幅広く活躍しているが、とりわけ舞台で印象的な役柄を演じることが多い。近年では岸田國士戯曲賞を受賞した加藤拓也率いる「劇団た組」にたびたび出演。
受賞作である「ドードーが落下する」では主演を務め、少しずつ変化していく友人との関係に戸惑う青年を好演した。昨年も、読売演劇大賞最優秀作品賞を受賞した『人魂を届けに』に出演したばかり。
そんな藤原が演じたからか、今回の金に目がくらんでヤラセに手を染めてしまうインフルエンサー役も類型的な演技にとどまらず、絶妙な軽薄さを醸し出していたように思う。演出の筧のSNSによれば、「金髪にしたい」と自ら提案したのだという。確かにあの金髪は、インフルエンサー感のリアリティを深めるのにひと役買っていた。