「同意に基づいた、風通しの良い業界を作りたい」インティマシー・コーディネーター・浅田智穂インタビュー
近年、国内の映像業界では、これまで隠されてきたハラスメントの実態が次々と明らかになりつつある。そんな中、注目を集めるのが、「インティマシー・コーディネーター」という職業だ。インティマシー・コーディネーターとして活躍する浅田智穂さんに、ご自身の使命や、映画業界が抱える構造的な問題について伺った。(文・編集部)
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【浅田智穂プロフィール】
1998年、University of North Carolina School of the Arts卒業。2003年、東京国際映画祭にて審査員付き通訳をしたことがきっかけとなり、映画業界と深く関わるようになる。その後、日米合作の映画企画から撮影、公開時のプレミアに至るまで、通訳として映画の現場に参加。撮影現場では監督付き通訳として参加するほか、舞台においても、英語圏の演出家、振付家、ダンサーなどと、日本の製作者、キャストとの間の通訳として活動。2020年、Intimacy Professionals Association にてインティマシーコーディネーター養成プログラムを修了。Netflix 映画『彼女』において、日本初のインティマシーコーディネーターとして作品に参加。その後、数々の映画やドラマに携わる。2024年7月25日配信のNetflix シリーズ『地面師たち』(監督:大根仁)にもインティマシーコーディネーターとして参加している。
俳優を守るインティマシー・コーディネーターの仕事
――インティマシー・コーディネーターの具体的なお仕事の流れについて教えてください。
「まず、現場に入る前に台本を読み込んで、インティマシーシーンになりうるシーンを抜粋します。なお、このとき抜粋するシーンには、キスシーンやベッドでのシーンはもちろん、シャワーシーンや着替えのシーンなども含まれます。
続いて、監督へのヒアリングを行います。例えばキスシーンであれば、舌を入れているのか、手はどの位置にあるのか。セックスシーンであれば、前戯なのか、クライマックスなのか。あるいは、脱衣所で着替えをしているシーンの場合、俳優は何かを1枚脱いでTシャツ姿になっているのか、それとも下着姿になるのか。そういったことまで事細かに聞いていきます。
監督へのヒアリングが一通り終わったら、俳優部の皆さんと面談を行い、監督の意向に同意できるかどうか、やりたいかどうかを尋ねます。この時、監督の要望と俳優部の意向が合致すれば問題ないですが、差が生じた場合、再び監督と相談し、撮影までに双方が納得する着地点に持っていきます。
また、描写の中にヌードや擬似性行為が含まれている場合は、同意書の作成をサポートします。あとは、他部署と一緒に準備して、撮影当日を迎えます」
――では、撮影当日の流れを教えてください。
「当日はまず、事前に同意いただいた内容に問題がないかどうかを確認し、タオルや前貼りといったものの準備を確認し、クローズド・セット(必要最小限の人数での撮影)での撮影が遵守されるようサポートします。撮影中は、俳優のケアや映像のチェックを行い、撮影が無事に終わるよう努めます」
――男性と女性で現場でのケアに違いはありますか。
「そもそもヌードの認識にも違いがありますよね。女性の場合は、トップレスの時点でヌードに該当しますが、男性の場合、下半身を露出して初めてヌードに該当します。なので、ケアの時点での違いは当然あります。
また、日本人の男性の場合、異性愛のインティマシーシーンで女性をリードしなければならないと思っている方が多く、その負担がお芝居に影響することもあります。
また、ご自身も露出度が高いにも関わらず、肌の露出の多い女性がスタッフから見えないようにと気遣ってくださる方も多いので、女性のケアは私の方で請け負い、男性の負担も減らします。お二人がお芝居に集中できる環境を構築することが大事だと考えます」