「『小さな幸せのスイッチ』を見つけるきっかけになる映画を作りたい」
―――児童虐待に悩む母親を描いたドラマ『やさしい花』(NHK、2011)も10年以上前の作品ですが、現在も上映とともに講演やワークショップが行われるなど、長く支持されていますね。
「脚本のみの担当なんですが、石野真子さんと谷村美月さんの熱演が素晴らしいです。2010年の大阪2児置き去り死事件で、児童虐待防止には親のケアも必要、とわかってきました。そこで翌年、NHK 大阪放送局が本作を製作しました。
無料イベントなら上映貸出料不要なので(福祉ビデオライブラリーにて貸出)、各地上映が続いています。『もし自分が当事者だったら』と振り返って意見をシェアするワークが好評です」
―――安田監督の映画は、自分の生活にそのまま置き換えられるようなリアリティがあります。その源泉は、どこからきているのでしょう。
「高校時代、同居していた祖母が鬱を患い、毎日暗い話を聞かされました。大好きなおばあちゃんが辛い妄想にとらわれていて、悲しかったです。また、話し相手を担い続けた影響で、私は約10年間パニック障害や神経性胃炎に悩みました。それらの経験から、『人は裏に事情を抱えている』『人生が悪くないと気づくことは、難しく、また尊い』と感じるようになりました。誰とどう関われば前を向けるのだろう、とよく考えます。
たとえば、『やさしい花』では、自身も虐待の過去を持つマンションの隣人が、虐待してしまう若いお母さんに寄り添います。『幸福(しあわせ)のスイッチ』では、東京で仕事がうまくいかず、不幸のドン底と思っていた次女が、故郷に帰って父親と接するうちに、人生や働く意義を見つめ直します。
負のスパイラルの中にいたのが、誰かと交わることで、人生がちょっと明るくなる。そうして一歩を踏み出したら、今度は他の誰かの役に立てるかもしれない。そんなプラスの連鎖を生む『小さな幸せのスイッチ』が見つかるような、心に陽の風が吹く映画を作りたいです」
—————-
次なる作品は、神戸を舞台にアラフィフの恋物語を撮影したいとのこと。明治時代のラブレターが出てきて物語が動き出すらしいが、タイトルは未定だ。
他にも、ネジ工場を舞台にした男三代の子育て物語『虹色のネジ』、母と、母に逆らえない娘の愛憎を描く『胎内の魚』を構想中とのこと。
日常の小さな変化から幸せを見つけていく安田真奈監督。「新作映画のリサーチが楽しくて」と瞳を輝かせていた。公開が楽しみだ。
(取材・文:田中稲)
【著者プロフィール:田中稲】
ライター。アイドル、昭和歌謡、JPOP、ドラマ、世代研究を中心に執筆。著書に『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)『昭和歌謡出る単 1008語』(誠文堂新光社)がある。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」を連載中。「文春オンライン」「8760bypostseven」「東洋経済オンライン」ほかネットメディアへの寄稿多数。
「ここで私が諦めたら電器屋の映画は生まれない」沢田研二を店主に迎えた安田真奈監督、ロングインタビュー【前編】
【関連記事】
「ここで私が諦めたら電器屋の映画は生まれない」沢田研二を店主に迎えた安田真奈監督、ロングインタビュー【前編】
「同意に基づいた、風通しの良い業界を作りたい」インティマシー・コーディネーター・浅田智穂インタビュー
「役者ならではの快感があった」映画『マンガ家、堀マモル』で主演を務める山下幸輝単独インタビュー。俳優としての展望を語る