安定感のある「バラードのような声」
阿部寛
ーーー続いては、いい声ランキング常連の感のある阿部寛さんです。
「阿部さんは、斎藤工さんと中村倫也さん、佐々木蔵之介さんと悩んだんですが、最終的に私自身の声の好みで選ばせていただきました(笑)。ただ、この4人はほぼ同列ですね」
ーーー阿部さんは、低音のイケボでおなじみですね。
「そうですね。ただ、阿部さんの声って、実はそこまで低くなくて、男性の声としては周波数がちょうど真ん中なんですよ。それでいて、帯域が広いんですね」
ーーー帯域とはなんでしょうか?
「声の周波数の幅のことで、いわゆる『声の幅』といわれるものです。
基本的に、人間の声って、風邪をひいてたら周波数が高くなったり、落ち込んでいると周波数が低くなったりといったように、体調や気持ちでブレがあるんです。でも、阿部さんの声はそれがない。
加えて、舌を出すとしっかり声の輪郭が出るし、トーンを上げた怒りの演技でも、キンキン響く部分もない。とても聞きやすい声なんです」
ーーー帯域の広さが役柄の広さに繋がったりするんでしょうか。
「おっしゃる通りで、俳優さんとしては広ければ広い方がいいです。ご存知のように阿部さんは、シリアスもコメディも得意とされている俳優さんですよね。彼の演技の幅は、声の帯域が一つ要因としてあると思います」
ーーーちなみに、阿部さんのような声は、世間的にも好まれる印象があります。この辺はどのようにお考えですか。
「帯域が一定してるので、安心感があるんじゃないでしょうか。やはり、帯域にブレがあると、聞いているこちらもハラハラしてしまう。その点、阿部さんの声は、一貫してるので、落ち着いて聞くことができますね。要は『バラードのような声』というわけですね」
―――とても腑に落ちました(笑)。
「あと、一定の帯域の声は、アナウンサーにも求められますよね。おそらく、アナウンサーも、接着面積(上顎につく下の面積)をできるだけ均等にするよう意識しながらニュースを読んでいると思います」
ーーー確かに、アナウンサーの声がブレブレだと視聴者に不安を与えかねないですからね。ちなみに、帯域を一定するには、どういったトレーニングをすればよいのでしょうか。
「一番簡単なのはハミングですね。ハミングをした時に、小鼻がどれだけビリビリくるかをまず見る。そして、口を開けた時に、鼻の中で作った響きをできるだけ逃さないように練習すると、徐々に帯域が一定になります」