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画面のスタイルを規定する “横浜流星ルック”

©2024 映画「正体」製作委員会
©2024 映画正体製作委員会

 といっても、映画『正体』では、最初から横浜流星の顔がはっきり写るわけではない。

 誤認逮捕された死刑囚が逃亡犯になる本作では、冒頭、独房の暗がりで刃物を口に入れる主人公・鏑木慶一(横浜流星)の口元を捉える。彼は吐血に見せかけ、搬送中の救急車から逃亡をはかる。その間、鏑木を捜索する刑事・又貫征吾(山田孝之)や取り調べを受ける接触者たちの横顔のアップが平行する。

 職を転々としながら潜伏する鏑木の後ろ姿が4カット続き、猛ダッシュで逃走する鏑木がカメラ側をちらりと向く顔がモンタージュされ、作品タイトルが浮かぶ。

 鏑木の顔が真っ正面からはっきり最初に写るのは、移送中の逃亡を報じるニュース映像画面に表示される犯人写真。逃亡中の鏑木は工事現場で肉体労働の職を得る。ヒゲとメガネで変装した姿が元の顔を完全に隠しているが、同僚である野々村和也(森本慎太郎)に密告され再び逃亡する。

 次に就くのはWebライターの仕事。これなら編集者と顔を合わせるだけで、身元がバレるリスクは減る。ライターの才能を開花する鏑木が担当編集である安藤沙耶香(吉岡里帆)と居酒屋で食事する場面でやっと美麗な状態を保つ顔が写る。

「こんな美味しいもの生まれて初めて食べたので」と焼き鳥を頬張る鏑木は、名前を偽っているからこそ、安藤から「信じます」と言われて徐々に涙目になる。焼き鳥の油で光る唇を半開きにした鏑木が、ふと画面右方向へ視線を遣る。なんとも複雑であいまい。それでいて甘い吐息をもらすその表情の変化を切り返しショットのみで描く藤井道人監督は、横浜の顔に流麗の二文字をはっきり読み取るかのようだ。

 藤井監督と横浜が実に7度目のタッグを組む本作の画面で提示されるのは、6度目のタッグ作『ヴィレッジ』(2023)で喜怒哀楽の感情を微調整した渾身の表情のその先、今度は画面のスタイルを横浜の顔自体が規定してみせる “横浜流星ルック”だ。

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