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「僕のやっていることはオンリーワン」初監督作品で役者経験を存分に発揮。映画『君に幸あれよ』監督・櫻井圭佑インタビュー

text by 福田桃奈

俳優として数々の作品に出演し、写真家としても活動している櫻井圭佑さん。彼が初監督・脚本を務めた映画「君に幸あれよ」が2月4日に公開される。それに伴い、インタビューを敢行。初監督作品を制作するにあたり、意識したことやこだわったポイントなど、作品に関する話をたっぷり伺った。(取材・文:福田桃奈)

【櫻井圭佑 プロフィール】

撮影武馬怜子

1995年10月16日生まれ、埼玉県出身。2016年に俳優としてデビュー。TBS「初めて恋をした日に読む話」、NHK「ちむどんどん」などドラマ・映画を中心に活動。2019年より写真家としても活動し、これまでに恵比寿、日本橋、目黒のギャラリーにて 3度の個展を継続して開催。映画監督として本作「君に幸あれよ」で初監督、初脚本で監督デビュー。その後、映像作家として短編映画(解禁前)、MV(解禁前)のメガホンを取るなど、精力的にディレクターとしての経験値を積み重ねている。写真家、映像作家におけるスキルは全て独学。座右の銘は「暇なら、自分で忙しくしろ」

「2日間でプロットを書き終えた」
タイトルに込められたメッセージとは?

―――『君に幸あれよ』というタイトル、とても印象的なのですが、どのような経緯で決まったのでしょうか。

「実は最初このタイトルじゃなかったんです。元々は『叫び』っていう、一言のタイトルを仮当てしていました。撮影を終えて、完成後に改めて今回のアソシエイトプロデューサーの前信介さんと一緒に正式タイトルを考えることになりました。僕としては、主人公の真司が周囲から想われていることを言葉にしたいという思いと、この作品と出会ってくれた方に何かメッセージを伝えたいという気持ちがあったんです。『君に』っていうのは真司に対してです。それに続く言葉として、例えば『幸あれ』だと、『頑張れ』と押し付けるようなニュアンスが強く出るので、ちょっと寂しいなと。そうではなくて、『一緒に頑張ろうよ』っていうニュアンスが伝われば、素敵だと思ったので、『君に幸あれよ』の『よ』が凄く僕の中では大事なんです」

―――脚本がとてもしっかりしていたので、時間をかけて書かれたんだろうなと思っていたのですが、プロダクションノートによると2日間で書き上げたとのことで、とても驚きました。当て書きでプロットを書かれたとのことでしたが、最初のプロットにはどんなことが書かれていましたか?

「シナリオを執筆する上で、一貫したロジックがあったわけではないんです。物語を書くにあたり、夜通しネットカフェに籠もって、何も浮かばなくて、夜が明けて始発で帰る途中に浮かんできたものをiPhoneに殴り書きしたんです。主人公の真司を演じた小橋川健と、相棒の理人を演じた髙橋雄祐の関係性にインスパイアを受けて、“兄貴分と子分”という設定が思い浮んで、それに続いて“金髪の2人”というビジュアルが思い浮かびました。僕は、俳優をやる時もそうなんですけど、台本を読んだ時に映像がバーっと頭に思い浮かぶタイプなんですよ。そこから台詞を追加していく作業を2日間で行いました」

撮影武馬怜子

―――最初の段階であったけど完成時には残っていないシーン、あるいは撮影していく過程で付け加わったシーンはありますか?

「初稿の段階で完成の7割くらいだったと思うんですよね。なので、今の質問に答えるとしたら、削ったところはありません 」

―――そうなんですね!

「初稿に書かれていないシーンを準備段階で追加することはありました。今回は、中島ひろ子さんと諏訪太郎さんという大ベテランに出演していただいているのですが、キャスティングが決まった段階で、中島さん演じる薫というキャラクターが浮かんできました。諏訪さんが演じてくださったラーメン屋の店主も同様ですね」

―――ラーメン屋のシーンは良い意味で緊張がほぐれる場面で、絶妙なアクセントになっています。

「個人的に、映画を観る上で、緊迫した展開が続く中でも、緩衝材になるような優しいシーンや、反復されるシーンがとても好きなんです。心の拠り所じゃないけど、作品全体の風通しを良くする、クッションのようなシーンを作りたいと思っていて。じゃあ真司にとって大切な場所はどこかと考えた時に、薫がいるスナックという場所を発想しました。あとは、真司と理人の関係を客観的に描写し、2人を優しく見守るシーンとして、ラーメン屋の場面が浮かんだんです」

―――緩衝材として、物凄く効いていると思いました。もちろんラーメンを食べる身振りなどで、キャラクターの特徴が伝わるシーンにもなっていると思いました。

「そうですね。ラーメンを食べる芝居にも様々な工夫が凝らされています。理人がどんぶりに左手を添えられないといった些細な仕草や、お行儀の悪さから、キャラクターのバックボーンが表現できればいいなと思い、台詞以外の部分でも演出を付けていきました。そこは凄く考えたところです」

撮影武馬怜子

― 理人のキャラクターに真司も救われていると思いますが、観客も救われたと思います。とても個性的な役柄ですが、理人のキャラクターをどのようにして作り込んでいったのでしょうか?

「理人役の髙橋雄祐が、実際にとてもフワフワした人なんです。僕と小橋川と髙橋の関係は6年くらいになるんですけど、僕と小橋川が喧嘩をして言い争うような時にも、『まぁまぁまぁ』といった具合に、上手く間に滑り込んでくる(笑)。いつも中立な立場で人を和ませることが出来るし、不思議なオーラを持っている人なので、そこからインスピレーションをもらいました。あとは真司に対して一方的に入り込んでいくキャラクターである、というのが構想にあったんですね。真司はかつて大切な人を失ったことで、他人が心の中に入ってくるのを拒絶している。そんな彼に”影響を与えることができる人”ってどんな奴だろうと考えた時に、明確な自我を持っているキャラクターというよりかは、フラットな状態で、真司の心にするりと入っていくようなキャラクターだろうと。そんなことを考えながら、脚本を書いていきました」

― 理人は台詞の言い回しも独特です。そのあたりもシナリオの段階で決まっていたのでしょうか。

「そうですね。シナリオの時点で理人のキャラクターのコンセプトは決まっていました。脚本に余白が多く、未完成の状態で撮影に入ったんですけど、俳優が優秀だったので、彼らが自身で考えてきてくれた演技プランに助けられたところも多いです。本作に出演している役者たちは、毎日のようにオーディションを受けて、ハイエナのように貪欲な気持ちで芝居に取り組んでいる人たちです。彼らはみな、それぞれが演じるキャラクター像を明確に思い描いて、高い意識で現場に入ってくれたし、提案もしてくれました。もちろん、時には稽古が必要なケースもあり、その時は時間をかけて芝居を探るようなこともしましたが、基本的には役者自身が個々でちゃんと考えてきてくれました」

―――アドリブなのかな?と思うシーンがいくつかあったのですが…。

「例えば…?」

―――真司と理人がベンチで横並びに座るシーン。真司の鞄の上に理人が座ってしまい、「座るなよ」と突っ込むところがとてもコミカルで笑ってしまったのですが、あれもアドリブではなく、脚本にある台詞ですか?

「そうですね。実は僕は、アドリブというものがあまり好きじゃないんです。本作では、いわゆる即興芝居はなかったと思います。例えば、路上で真司と理人の2人が立っていて、理人が近くに置いてある自転車を見つめているうちに、徐々に他の対象に興味が移っていくといった細かい仕草も、すべて丁寧に一つひとつ意識してやってもらっています」

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