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演技に”一貫性を持たせない”ことで表現したかったこと

―――櫻井監督は、役者としてもご活動されていますが、現場での立ち居振る舞いなど、参考にされた監督さんはいますか?

「立ち居振る舞いとは異なるのですが、僕が小橋川と髙橋に出会ったきっかけが、尊敬する藤井道人監督のワークショップだったんです。その時に、藤井さんは『私は監督ではあるけど、演技を教えられる人間じゃないので、皆さんから教えてもらえたら嬉しいし、一緒に考えたいです』と仰っていて、僕の心にはその言葉が深く刻まれています。準備期間が短い中、2週間で初監督作品を撮るというのはおそらく前例のないチャレンジであって、ある意味で僕のやっていることはオンリーワンだと思うのですよ。だから誰かを模倣しても通用しないし、僕は僕で勝負するしかないから、特に明確なモデルを立てずに、現場に臨みました。とはいえ、初めて監督を務めるにあたり、“監督は演技の正解を持ってなきゃいけない”という気負いに押しつぶされそうにもなりました。そんな時、支えになったのが、『監督は演技を教える人じゃない』という藤井監督の言葉だったんです」

―――役者さんとお芝居を作りあげるにあたり、特に意識したポイントはありますか?

「現場に入ってからは、『お芝居に一貫性がなくても構わない』ということは伝えていました。『同じ人間でも一貫性がないのが普通だから、撮る順番がバラバラだったとしても気にしなくていいから』と。『オッケーを出すのは僕だから、全部責任取ります』って伝えて」

――― ”一貫性がなくても構わない”という点について、詳しく教えていただけますか?

「役者たるものどうしてもシーンのつながりを考えてしまい、『この後にはあのシーンがあるから、俺はこうでいなきゃいけない』みたいな形で、お芝居に一貫性を持たせる意識が働きがちです。でも僕は、シーンのつながりよりも、撮影1日目で感じた感覚を大事にして、2日目の撮影に臨んでほしいと思ったんです。撮影を重ねていくうちに、自分の中で生じた変化も含めて芝居にぶつければいい。全体のバランスを調整するのは監督である僕の仕事です」

撮影武馬怜子

―――なるほど! 本作を鑑賞して「作品の中に生きた人間が映っている」という感想を抱いたのですが、その秘密が少し分かった気がします。改めて、主演を務めた小橋川さんと、髙橋さんについて、それぞれの魅力を聞かせてください。

「髙橋雄祐はワークショップで出会った時から、『コイツ、凄いな』と思っていて…最初はぶっちゃけ、あまり仲良くなりたくないなって思っていました(笑)。身近に巨大な才能の持ち主がいると、同業者としてジリジリと焦る気持ちになりますから。彼はインディーズでキャリアを積んで、すでに唯一無二のキャラクターを持っています。理人を演じる上でも、的確なアイデアを沢山提案してくれて、『俳優って、カッコいいお仕事なんだな』と実感させられましたね。小橋川は、僕がまったく仕事のない時期から、沢山飯を食わせてもらった兄貴分です。彼が映るだけで画が持つし、色気が凄い。台詞も一言一句しっかり憶えてくる。元々仲が良かったからこそ、今回は俳優としての覚悟みたいなものを強く感じました。彼には人を引っ張る力があるんですよ。大将肌というか。撮影後半では、スタッフ、キャスト全員が小橋川に対して、『初主演の彼のために頑張ろう』というムードが形成されていました。今でも3人の関係性は何も変わんないんですよ。雄祐は僕ら2人にずっとイジられて(笑)、くだらないことで笑い合って。今回は撮影を通じて、俳優として2人へのリスペクトを深めることができたのが嬉しかったです」

―――監督が一番好きな映画や、頭の中に残っている作品はありますか?

「これも一貫性がないので、オールタイムベストというよりかは、今の自分が好きな作品でいいですか? タナダユキ監督の『百万円と苦虫女』(2008)が大好きです。この作品には思い入れがありますね。自分が追い詰められた時に、『本当に追い詰められた時は、誰も自分のことを知らない所に旅すれば良いし、誰も知らない所に逃げれば良いや』と、ナチュラルに救われたんですよね。直接的に問い掛けられるわけでなく、答えを与られたわけじゃないのに、あの映画を観ると本当に救われる。何回も観ているんですけど、一見意味がないようにみえる”間”に、様々なものが詰まっているところも好きなポイントです」

―――それを聞いて、今作のラストシーンにも通ずるものを感じました。私はラストシーンに希望を感じて、救われたような気持ちになったんです。それが真司の望みなのか、現実的なのか、どちらにも捉えられるなと思ったのですが。とにかく救いがあると思いました。

「実はあのラストのシーンを入れるか入れないかで意見が割れたんです。でも僕は絶対に入れたいっていう信念を貫きました。僕は、映画はエンドロールまで観てほしいと思うタイプ。とはいえ、エンドロールまで見せ切るには、作品にパワーがないといけない。そこまで響かない作品だったら、画面が暗転した瞬間に席を立つだろうと。今回僕は、エンドロールが終わるまで席に居て欲しいという願いも込めて、最後の最後にとあるシーンを入れました。僕自身、あのシーンが大好きなので『希望を感じた』というご感想は嬉しいですね」

―――お客さんにはどうか最後まで席に座っていてほしいと思います。本日はありがとうございました!

撮影武馬怜子

(取材・文:福田桃奈)

【作品情報】
『君に幸あれよ』
監督・脚本・編集:櫻井圭佑
出演:小橋川健 髙橋雄祐 玉代勢圭司 松浦祐也 諏訪太郎 中島ひろ子
撮影:寺本慎太郎
照明:渡邊大和
撮影助手:長橋隆一郎
録音・整音:寒川聖美
助監督:柳田鉱
音楽:鶴田海王
アソシエイトプロデューサー:前信介
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
公式ホームページ

2023年2月4日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

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