お仕事ドラマとしての『ドクターX』
「失敗していいオペなんてひとつもないよ」
神津比呂人(染谷翔太)と手術に関して朝まで会話を続けたシーンのセリフ。ああ、ラストまで名言を増やすとはさすが大門未知子。最終的に何が贅沢なのかといえば、腕は一流、発言はいつまで経っても反抗期のような医師の生い立ちが、やっと、やっと分かることである。加えて、真のドクターXとは誰なのかも…。この魅せ方に脚本家・中園ミホの腕が存分に光っていた。
改めて。患者に対して、どこまでも一心不乱でいる大門未知子を少し羨ましく思った。私は“誰かのために”仕事をしているのだろうかと、疑問が飛ぶ。そして誰かのために仕事をしたいと、改めて自分の仕事を考える。これが私の映画を観た感想だ。
今、これからの生き方に迷う10〜20代が多いと聞く。学校で文部省が制作した当たり障りのない資料をプロジェクターで見せているよりも『劇場版ドクターX FINAL』を観せるほうが、何か伝わるものはあるかもしれない。
ちなみに生き方に迷うのは若年齢層だけではなく、中高年も同じ。私が映画館で鑑賞をした日は平日だったけれど、中高年の客で混んでいた。ドラマの痛快さと、大門の強さに興味があったからこそ、わざわざ劇場に足を運んだのだろうと思った。中には前のめりになって鑑賞したり、泣いている客もいた。
皆、連続ドラマをリビングで観ていた視聴者であり、大門の患者だ。劇場を後にする頃は、それぞれの病が治っているように…と小さく願う 。私も大門が患者を救う姿に心を打たれ、自分への疑問を解決して、帰宅した。明日からも誰かの暇つぶしと、気づきになるよう、良き文章を書くのだ。
(文・小林久乃)
【作品情報】
『劇場版ドクターX』
監督:田村直己 脚本:中園ミホ
出演:米倉涼子 田中圭 内田有紀 今田美桜 勝村政信 鈴木浩介 染谷将太 西畑大吾 綾野剛 遠藤憲一 岸部一徳 西田敏行
Ⓒ2024「劇場版ドクターX」製作委員会