笑いと現実感が交錯する日常描写
なお、日常の描写にも光るものがあった。たとえば、有名な氷菓・パピコを買ってきたブッダは、「分け合いたい主義」なのだと言って、イエスと半分ずつ食べる。イエスは、「さすが仏」などと軽口を言って受け取り、パピコのチューブの端をちぎった。そして、ちぎれた側に残っているわずかな中身を吸う。
この庶民感覚は、『聖☆おにいさん』ならでは。買い物用のビニール袋をちまちまと三角形に折る描写などと相まって、随所にくすぐりと現実感をもたらしていた。今回の「THE MOVIE」は、原作の中村が劇場映画のために描いたエピソードだけあって、一種独特の“イズム”が色濃く反映されていたように思う。
ちなみに、今回の映画を最後の最後にかっさらっていったのは、神の子でも仏でもなく、堕天使ルシファーだった。ルシファーは“闇堕ち”したかつての天使長で、突如中二病感あふれるコスチュームで現れたかと思いきや、熱く叫んで壮大なグダグダを見事に回収。どんなセリフだったかは、観てのお楽しみ。ギャグ作品なのに救われた気持ちになってしまうこと請け合いだ。
(文・近藤仁美)