恋愛作品で全面的に解放される存在の色気

『わかっていても the shapes of love』
『わかっていても the shapes of love』©AbemaTV,Inc.

 後ろ姿を執拗に写したあとに俳優の顔を際立たせる意味では、『正体』の藤井道人監督も居酒屋の場面で、横浜と吉岡里帆の単純な切り返し演出を施していた。

 律儀過ぎるくらいまっとうな切り返しを多用する藤井監督に対して、正攻法的なカッティングをあえて回避している中川監督の方が異様な色っぽさを抽出しているのは不思議である。第3話の水族館場面で水槽を前にした漣と美羽の目元を映したショットが切り返され、バーの場面より濃密な視線の交換が描かれる。しかしこの場面では、彼の存在の色気が十分にすくい取られているとは言い難かった。むしろ、彼の色気は、観る者の視線をかいくぐるような、捉えがたい瞬間にこそ宿る。後ろ姿の背後に隠された、ほんの刹那の秘密がある。

 藤井監督の『新聞記者』(Netflix、2022)でも初登場する横浜に対して、カメラが後ろ姿を捉える。早朝の住宅街を俯瞰する大ロングの画面上、一本道を走るバイクを運転する木下亮(横浜流星)が新聞を配達している。停車した亮が眠気とともにふっと息をもらす。寒そうである。なのに白い息ではない。

『わかっていても』第1話ラスト、美羽が自分をモチーフにした石膏作品を前にしている姿を実は後ろで漣が見ていた様子が明かされる。彼の背景、窓の外では雪が降っている。あれ、おかしいぞ。漣が赤ペンキをぶちまけたのはそのあとのことである。雪はやんでいたのかもしれないけれど、「ごめん」と声をかけた漣は、どうして白い息を吐いていなかったのか。ぼくは白い息を吐く横浜流星が見てみたい。なのになぜかほとんどの監督が描こうとしない。

『正体』の鏑木が最終逃亡先で、雪原にたたずんで若干白い息を吐いていた。でもそれは完全な恋愛映画での吐息ではない。横浜流星が吐く白い息ほど美しいものはたぶんない。そしてそれは恋愛映画の中でこそ増幅される。横浜流星には、恋愛作品で全面的に開放される存在の色気がある。という意味での取説が必要だとぼくは勝手に思っている。

(文・加賀谷健)

【関連記事】
【写真】横浜流星が美しい…貴重な未公開カットはこちら。ドラマ『わかっていても the shapes of love』劇中カット一覧
テレビでは拝めない横浜流星の“ただならぬ色気”とは? 配信ドラマ『わかっていても』評価&解説レビュー
俳優・横浜流星の唯一無二の魅力とは? 映画『正体』考察&評価レビュー。藤井道人とのタッグから読み解く役者としての現在地

【了】

1 2 3 4
error: Content is protected !!