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映画『銀平町シネマブルース』は面白い? 忖度なしガチレビュー。映画館への愛に満ちた小出恵介復帰作【あらすじ 考察 解説】

text by 冨塚亮平

『夜、鳥たちが啼く』『恋のいばら』の城定秀夫監督が贈る、名画座を舞台にした群像劇『銀平町シネマブルース』が、2月10日(金)より全国の映画館で公開がスタートする。主演を務めるのは、スクリーン本格復帰となる俳優・小出恵介。近年、話題作を連発する城定監督と脚本を執筆したいまおかしんじの過去作を紐解きつつ、本作の魅力に迫るレビューをお届けする。(文・冨塚亮平)

【著者プロフィール:冨塚亮平】

アメリカ文学/文化研究。神奈川大学外国語学部助教。『キネマ旬報』にて外国映画星取レビュー連載中。「ケリー・ライカートの映画たち 漂流のアメリカ」プログラム、ユリイカ、図書新聞、新潮、精神看護、三田評論などに寄稿。三月に濱口竜介『ドライブ・マイ・カー』をめぐる国際シンポジウムの成果をまとめた論文集に関係者へのインタビュー三本を加えた共編著を出版予定。

小出恵介が演じるのは“挫折した映画監督”
テーマはずばり“映画と映画館への讃歌”

C2022銀平町シネマブルース製作委員会

明治38年に開館し現在も営業を続けている趣のある映画館、川越スカラ座で多くのシーンが撮影された本作『銀平町シネマブルース』は、動画配信サービスの隆盛とコロナ禍の影響で現在苦境に立たされているミニシアターと、そこに集う一癖も二癖もある人々に優しい眼差しを注ぐ、映画と映画館への愛に溢れた一本だ。

物語は、川辺に寝そべる一文無しの主人公近藤(小出恵介)の前に、ホームレスの佐藤(宇野祥平)がやってくるところから幕を開ける。生活保護ブローカーの説明会で偶然出会った映画館「銀平スカラ座」の支配人梶原(吹越満)に導かれるまま、彼のもとに身を寄せた近藤は、住みこみのバイトとして映画館で働くことになる。近藤はいったい何者で、なぜ住む場所を失っていたのか。映画館に集う従業員や常連客との交流を深めるうちに、どうやらもともとは将来有望な映画監督だったらしい彼の過去が、少しずつ明らかになっていく。そんな折、経営難の銀平スカラ座を盛り上げる起死回生の策として、開館60周年記念のイベントを開催するアイディアが浮上する。近藤は、仲間たちと力を合わせて、イベント成功に向けて奔走するのだが…。

監督・城定秀夫×脚本・いまおかしんじ
初となる両者のコラボレーションに注目

C2022銀平町シネマブルース製作委員会

脚本を担当したいまおかしんじが、城定秀夫とはじめてタッグを組んだことでも話題の本作だが、長年にわたり交流を続けてきたこともあってか、今作でいまおかが描き出す人物たちや彼らが育む関係性からは、どこか過去の城定映画にも通じる要素が感じられる。

たとえば、映画館の従業員や常連客たちはみな、突如働きはじめた近藤や、ときおり映画館を訪れる映画好きの佐藤といったホームレスに分け隔てなく接する。そうした振る舞いは、当時ベストセラーだった『ホームレス中学生』のパロディ企画という、どう頑張っても面白くなるはずのなさそうな企画から生まれた異形の感動作『ホームレスが中学生』(2008)を思わせる。この映画では、はじめはクラスにやってきたホームレスの中年男性をいじめていた中学生たちが、やがて彼を被写体としたドキュメンタリー映画を撮影するなかで、次第に異質な他者への想像力を働かせる術を学んでいく。そして、紆余曲折の末に中学生たちは、男性と友情を築くこととなる。同作で接点のない中学生とホームレスを結びつけるきっかけとなるのが他ならぬ映画であったことは、『銀平町シネマブルース』にも共通する、真っ直ぐな映画愛が反映された仕掛けだろう。

C2022銀平町シネマブルース製作委員会

しかしながら、もちろん本作には、城定脚本作とは異なるいまおか独自のテイストが色濃く感じられる部分も多い。城定のように葛藤や反省を経た個人の変化を強調するよりもむしろ、いまおかは、居場所を求める人間を誰であれ否定せず受け入れる、一種の避難所やユートピアとして機能する映画館という空間の性質に焦点を当てている。これまでの彼のさまざまな監督作において、主にこうした役割を担ってきたのは酒場だろう。酒を求めて集まるダメな中年たちに向けられるいまおかの目は、たとえば傑作『れいこいるか』(2019)においては、尻を半分出しながら店内をうろつく佐藤宏を肯定する、どこか宗教性すら感じさせる慈愛の視線へと結実した。

C2022銀平町シネマブルース製作委員会

一方で、本作同様に具体的な空間に焦点を当てた佐藤稔脚本の『つぐない 新宿ゴールデン街の女』(2014)などでは、その優しさがどこか慣れ合いを許容する甘さのように映る面もないわけではなかった。城定脚本作と比べると、本作にもそうした甘さが垣間見える部分はある。しかし、同時にその甘口の人間観こそがいまおか脚本の味でもあることを周知しているはずの城定は、厚かましいが憎めない怪しげな男を演じさせればもはや右に出る者はいない、昨年の監督作『ビリーバーズ』でも大きな存在感を放っていた宇野祥平を再び起用することで、佐藤への周囲からの態度に一定の説得力を持たせることに成功している。

おそらく、こうしたいまおか節が城定の作劇術ともっとも幸福な形で結びついたのが、映画館の関係者たちが縦一列になって河原を歩く終盤のある場面だろう。どこかジョン・フォード『太陽は光り輝く』(1953)を想起させもするこのシークエンスでは、登場人物たちから佐藤へと向けられた優しさが、美しいショットによって忘れがたい形で記録されている。

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