大切なものを失った人に寄り添う「グリーフケア」
帰省後に昴が取材のために訪れた「つきあかりの会」は、グリーフケアを専門にしている団体だった。大切なものを失った人々が集い、ただ率直な気持ちを吐露して、ひとりではままならない想いを共有する。
冒頭で、ラジオ局のプロデューサーである森優作(木下隆司)がグリーフケアを昴に勧めて難色を示されたあと、「実際、悲しんでいる人はそういう場に行かないのかもな…」と呟くシーンがある。
しかし、悲しみをひとりで整理するのは極めて難しい。ナラティヴ・セラピーという心理療法があるように、人は語ることで初めて悲しみに手触りをもつことができる。
実家のキッチンで昴が、美紀から教えてもらった隠し味に日本酒を入れたカレーを作りつづけるのは、実態として手触りのある存在に縋ってしまうことも影響しているのだろう。
最愛の人の声を聞き返すことはできないのに、思い出のカレーを食べずにはいられない。記憶に生きる彼女の声を再生することはできないのに、記憶に馴染んだ味に口をつけずにはいられない。
そんな昴の姿は、グリーフの時期から抜けだすことができず、確固たるものに固執する彼の心情を痛ましいほどに表現していた。