「今まで見た自分じゃないと思った」
ディスカッションを重ねて作り上げた昴というキャラクター
―――この映画では、坂東さんが演じた昴以外にも、南果歩さん演じる母・洋子、岡田義徳さん演じる池内など、大切な人を亡くして喪失感を抱える人物が登場します。とても良いなと思うのは、それぞれの喪失感との向き合い方が一様ではなく、映画自体が「正解」を押し付けていないところです。
「繊細な映画ですよね。試写で観た時に今まで見た自分じゃないと思ったんです。声のトーンもそうですし、映像も含め、監督の編集のリズム、音の当て方も(見え方に)関係しているのかもしれません」
―――ご自身のお芝居をご覧になって発見があったのですね。見たことのない表情や声色が記録されていたと。
「今まで見たことのない表情が切り取られていて、僕自身、驚きました。声に関しても、いい意味で、自分の声じゃないみたいだなと。もちろんこれは僕の感想ですが、僕の仕事をずっと観てくださっている方にも、新しい一面が観れたと思っていただけたら嬉しいです」
―――以前インタビューをさせていただいた『若武者』(2024)を含め、過去に坂東さんが出演された作品をいくつも拝見していますが、確かに本作では今までにないお芝居にチャレンジされている、という印象を受けました。一方で、どんな題材、どんな役柄でも一貫した「坂東さんらしさ」があると思っていまして。それは、観る人をさりげなく驚かせるところだと個人的には思います。昴が実家に帰省した最初の晩、襖を少し開けて南果歩さん演じる母と対話をするシーンがありますよね。この時の坂東さんのお芝居が、その前のシーンから予測されるテンションよりも少し高い。ここ、すごく生々しいと思ったんです。
「そこに気づいてくれるのはすごく嬉しいですね。実はその場面、どういうテンションでいくのか、監督とかなり綿密に話し合ったシーンなんです。ただ重いだけの映画にはしたくないという思いもありましたし、繊細な映画だからこそ、シーン毎のテンションのあり方によって観る人の印象はガラッと変わるわけで、調整はすごく大事だなと。
また、父も『心は悲しくても、それとは裏腹に外面は明るくなる』と言っていて、その意識は大切にしようと思いました。とはいえ、僕は当事者ではないので、最終的には想像力に頼るしかなく、役について考えれば考えるほど重くなってしまう部分がありました。でも、監督はそこをしっかり見てくださっていて、『もっと上げてほしい』ということを何回も言われて、ディスカッションを重ねながら撮影を進めていったんです」
―――ただ自然に演じるのではない、考え抜かれたお芝居がリアリティを生んだわけですね。
「何回やってもできないシーンもあったんですよ。例えば、岡田義徳さん演じる池内と自転車で帰っていくシーンでは、その前の居酒屋の場面から芝居のテンションがなかなか上がらなくて。結構なテイクを重ねて、あそこだけ、監督とのディスカッションが少しヒートアップしました(笑)」