3人の女性が主人公の内面をつまびらかに
そして、静かな隠居生活はゆがみ始める。待ってはくれない老いを感じさせながら、時の経過とともに特徴的に描かれるのが、3人の女性たちとのやりとりだ。儀助の元を時折訪れる教え子・鷹司靖子(瀧内公美)、行きつけのバーでアルバイトをする菅井歩美(河合優実)、そして亡き妻・信子(黒沢あすか)。そんな3人の女性によって、遺言書まで書き上げ、日々変わらない静かな生活を営んできた儀助の奥深い欲望のようなものが、つまびらかにされていく。
瀧内公美が演じる靖子は、儀助と出会った頃に学生時代だったことを思うと、その変わらぬ美貌と知性あふれる立ち居振る舞いが儀助の77歳の日々もまた明るくしてくれるものに違いない。
歩美もまた、これほどまでに静かな儀助の生活に波風を立てるほど小悪魔的な魅力を放ち。儀助ならずともその魅力にくぎ付けにされた。
そして亡くなってもなお、儀助の心に居つく亡き妻・信子(黒沢あすか)。夢と現実の境目が分からなくなるような時間が儀助を襲う日々のなかで、儀助は本能的に彼女を求めながら、信子の恨み節や彼女に赦しを乞うような気持ちがにじみ出ていたように感じられた。