兵衛道賢が描く「もしも」の未来

© 2016 垣根涼介/新潮社 ©2025「室町無頼」製作委員会
© 2016 垣根涼介/新潮社 ©2025「室町無頼」製作委員会

 骨皮道賢は、もとは兵衛と同じアウトローだ。武力を得たことでかえって京の治安を任され、その立場上、悪友の兵衛と対立せざるを得ない。道賢は、乱世の人物らしく感傷に沈まないしたたかさを有しつつも、時折どこか眩しそうに兵衛を眺める。その視線からは、めぐり合わせが違えばふたりで実現し得たかもしれない未来を、想像せずにはいられない。

 その他、麻痺した幕府で国政に向き合う伊勢貞親(矢島健一)もいい。機能不全を起こしている組織にも、真面目に取り組む人はいる。彼の存在ゆえに幕府は完全な悪とまでは描かれず、物語に厚みが増す要素になっていた。

 一方で、「もう少し知りたい」と思ったのは、蓮田兵衛の生い立ちや来歴だ。作中ではさらりと漏れ聞こえる程度で、感情移入しながら観るにはやや心許ない。限られた時間内で多くの人物を描く以上ある程度仕方がないのだが、民衆をまとめるに至った兵衛の原体験などあれば、「一揆以外の手段はなかったのか」「蓄財も才覚のうちなのにそれを武力で壊すのか」といった雑念がよぎることはなかったように思う。

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