『室町無頼』が伝える希望
加えて、象徴的なシーンが象徴的すぎることも気になった。物語の序盤、刀身に兵衛の姿が映り、終盤には成長した才蔵の姿が同様に映る。胸が熱くなるはずの場面だが、きれいに決まりすぎてかえって少し冷めた。また、兵衛は道端に座り込む親子に自分の衣服を与えたが、再びそこを通りがかったときには、親子は兵衛の衣の下で骨になっていた。
それをみつけた彼は、世直しが間に合わなかったことを詫びる。ただ、ほぼ無彩色の路上に、青く彩られたまだ使えそうな布という取り合わせ。限界の世情だというのなら、他人がとっくに持ち去っているのではないだろうか。
物語のクライマックスでは、京に討ち入り、借金の証文を手に入れた一揆勢が、金貸しの家の塀に登ってそれをまき散らす。苦しい生活のなか、自力で得た借金帳消しだ。喜びもひとしおだと思うが、残っちゃまずい書類は撒くより確実に処分しようよ、と(外野ながら勝手に)ハラハラした。
とはいえ、こんなこまごまとした感想が浮かぶのも、物語に強い力があるからだ。色味を抑えた砂っぽい画面、めくるめく殺陣、多くの登場人物の気持ちが重なる瞬間に魅入られるうち、上映時間はあっという間に過ぎていく。
そして、映画館を出るころには、時代を動かすのは、やはり“人”なのだと確信する。個々の力は小さくても、想いを伝え連帯を忘れなければ、道が拓けるときがくる。『室町無頼』のころと同じく、天災や物価高にあえぐいまだからこそ観たい、新たな歴史大作である。
(文・近藤仁美)
【作品情報】
監督・脚本:入江悠
原作:垣根涼介『室町無頼』(新潮文庫刊)
出演:大泉 洋
長尾謙杜 松本若菜
遠藤雄弥 前野朋哉 阿見 201 般若 武田梨奈
水澤紳吾 岩永丞威 吉本実憂 ドンペイ 川床明日香 稲荷卓央 芹澤興人
中村 蒼 矢島健一 三宅弘城
柄本 明 北村一輝
堤 真一
配給:東映