遠藤憲一&甲本ヒロトのサプライズ

©2025「劇映画 孤独のグルメ」製作委員会
©2025「劇映画 孤独のグルメ」製作委員会

 本作において「五郎がかつての恋人の娘である千秋と協力して、彼女の祖父の思い出の味である『いっちゃん汁』を再現する」プロットは、あくまで映画を成り立たせる上での口実であり、あくまで主眼は、食材探しの旅の過程で、複数の登場人物が交わり、それぞれの人生に変化がもたらされる様子を描くことにあると言っていいだろう。

 その点、『孤独のグルメ』というタイトルは、見事に反語表現となっている。実際、孤独という言葉ほど、本作で描かれる五郎の旅と無縁のものはないだろう。

 本作において、五郎によって最も大きく人生を変えられた登場人物は、オダギリジョー演じる「さんせりて」の店主ではないだろうか。店主は「いっちゃん汁」の再現に尽力することで、料理人としての誇りを取り戻すのだ。その結果、「さんせりて」は、再び人気店になる。
 
 この映画の楽しい仕掛けについて、もう一点言及したい。

「さんせりて」の常連客・中川(磯村勇斗)はテレビ番組のディレクターであり、店主が作るラーメンを題材とした番組を作りたい、という思いを持っていた。劇中で中川は自身の夢を実現するわけだが、彼が手がける番組が、なんと『孤高のグルメ』という、本作のパロディなのである。

 主人公の名前は善福寺六郎役。演じるのは、松重豊と同世代の俳優・遠藤憲一。松重とは業界屈指の「コワモテ俳優」という共通点を持つ遠藤の出演、というサプライズがまた、ニヤリとさせる。

 さらに「ニヤリ」はさらなる仕掛けによって持続する。主人公の隣の席の客として五郎も出演する『孤高のグルメ』は、なんと海を隔てた韓国でも放送され、ユ・ジェミョン演じる入国管理官の目に留まる…という展開が描かれるのだ。『孤独のグルメ』は韓国でも非常に人気の高いドラマであり、事情通のファンは膝を打ったのではなかろうか。

 また、松重豊と同い年であり、若かりし頃にバイト仲間であった甲本ヒロト率いるザ・クロマニヨンズによる主題歌『空腹と俺』も、「友情ここにあり!」とでも言いたくなる、パンチの効いた楽曲で作品の世界を彩っている。

 甲本ヒロトにかぎらず、本作のキャスティングとスタッフィングは、40年以上にもわたる松重豊のキャリアが紡いできた「縁」の結晶であると言える。

 先に、本作の主眼が「食材探しの旅の過程で、複数の登場人物が交わり、それぞれの人生に変化がもたらされる様子を描く」ことにあると述べた。その見立てを敷衍すると、本作は、松重豊という偉大な俳優による、映画づくりという旅のドキュメントとして観ることもできるかもしれない。

(文・ZAKKY)

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【了】

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