映画『誰よりもつよく抱きしめて』評価&考察レビュー。配役の勝利…三山凌輝&久保史緒里の演技に心を揺さぶられたワケ
「好きなのに触れられない」。そんな普遍的な苦悩を、強迫性障害の主人公を通して描いた新堂冬樹の小説『誰よりもつよく抱きしめて』が2月7日(金)より公開中。今回は作品の魅力を多角的な視点で解説するレビューをお届けする。(文・ばやし)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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【著者プロフィール:ばやし】
ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。
絵本になぞらえて紡がれる静謐なラブストーリー
寒空が広がる鎌倉の海沿いの街で紡がれるのは、冬の静けさに包まれた静謐なラブストーリーだった。
原作となる新堂冬樹の小説『誰よりもつよく抱きしめて』を実写映画として世に送り出すのは、『ミッドナイトスワン』(2020)の内田英治監督。脚本家として坂元裕二に師事し、近年話題作を続々と手がけているイ・ナウォンとともに、刊行から20年の時を経た純愛小説を見事に映像化してみせた。
冒頭、客で賑わうカフェのテラス席で絵を描く青年・水島良城(三山凌輝)の姿が映る。暖かそうな店内の席が空いているにもかかわらず、マフラーは首に巻いたまま、頑なに外の席で絵を描いていた良城。そんな彼が座っていた椅子の上には、ハンカチが敷かれていた。
その理由はすぐに明らかになる。良城が帰宅した部屋のなかは隅々までビニールラップで覆われており、外出するときに着ていた服はすべて脱ぎ捨てて、洗濯機に放り込む徹底っぷり。良城は以前の職場でのコミュニケーションが上手くいかず、強迫性障害による重度の潔癖症を患っていたのだ。
一方、良城と同棲する恋人の桐本月菜(久保史緒里)は、小さな絵本専門店「夢の扉」で書店員として働いていた。学生のとき「夢の扉」のオーナーの孫でもある良城が描いた絵本に心を奪われ、ふたりは仲を深めていく。その後、良城が強迫性障害を患ってからも、彼と生活をともにしていた。しかし、彼らはともに日常を過ごすなかで、互いに触れ合うことはできない。いっしょの部屋で暮らしていながらも、手を繋ぐことさえできない日々を送っていた。
ストーリーの合間に朗読される「空をしらないモジャ」は、タワシのような毛を持ち、空を飛べない鳥のモジャが、旅の道中でたくさんの出会いを経験する絵本。まるで本編のふたりの関係を暗示するように、絵本のあらすじを辿りながら、物語は静かに時を刻んでいく。