俳優・三山凌輝の稀有な魅力

©2025「誰よりもつよく抱きしめて」HIAN /アークエンタテインメント
©2025「誰よりもつよく抱きしめて」HIAN /アークエンタテインメント

 静謐な物語に息づく登場人物たちを演じた、キャスト陣の芝居にも心を揺さぶられた。特に主演を務めた三山凌輝は、ダンス&ボーカルグループBE:FIRSTのRYOKIとしてステージで躍動する姿とのギャップに驚かされる。強迫性障害に苦しむ青年の姿かたちから心の機微に至るまでを繊細に演じきり、俳優としての三山凌輝の魅力が存分に引き出されていた。

 映画の公式サイトに掲載されているコメントでは「この難しい自分とは、正反対のキャラクターを演じるには、どう役に向き合えばいいのか、最後まで、ずっと考え試行錯誤し続けました」と語っている。それでも、役柄であるはずの良城と重なる瞬間はいくつもあり、どれだけ三山が作品のキャラクターと向き合ってきたかが演技にも体現されていた。

 アイドルグループ乃木坂46のメンバーの中でも、役者として多数の作品に出演する久保史緒里は、月菜の心の揺らぎをまっすぐな瞳と震わせた声で訴える。感情の波に振れ幅があるキャラクターだけに、それぞれのシーンごとに演じ分けを行わなければ、観ている人は感情移入しづらくなる。

 しかし、久保史緒里が演じた月菜は揺らぐ心とリンクするように、その瞳と表情には無力さともどかしさが宿っていた。柔らかく届く声質は朗読の場面でも真価を発揮しており、落ち着いた語り口は映画の雰囲気にもしっとりと馴染んでいる。

 心から人を愛することができず苦悩しながらも、月菜に対して一途に想いを寄せるジェホンを演じたのは、韓国のアイドルグループ2PMのファン・チャンソン。彼もまた難しい役どころだったものの、元々は流暢な日本語をたどたどしく言い換えながら、異国の地で暮らすジェホンの寂しさをまとう演技が印象的だった。
 
 良城が患う強迫性障害はコロナ禍を経てもなお、現実で多くの人が思い悩む病いのひとつだ。仕事での人間関係やプライベートでの行動など、大切な人との距離を狂わせてしまう。

 映画に登場するふたりのように、心と体の距離に戸惑いながら現実を過ごしている人がいる。だからこそ、良城が勇気を持ってクリニックへと通い、適切な治療を受けながらゆっくりと自身の病と向き合う姿を描いていることは、作品を通してとても重要な場面だと感じた。登場人物たちがそれぞれ葛藤しながら選んだ未来もまた、その一歩が無ければ見えなかったであろう道筋だから。

 美しいピアノとヴァイオリンの旋律が響くなか、複雑な人間関係に揺れながら紡がれるストーリーは、先に進むごとにいっそう切なさを帯びていく。まだまだ寒さが残る今の季節、静寂に包まれた空気感を肌で感じながら、ぜひ劇場へと足を運んで観てほしい映画だった。

(文・ばやし)

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