まじめでコミカルな言葉の応酬に宿るマジック

坂元裕二
坂元裕二【Getty Images】

 カンナが夜、車に乗りながら「餃子を焼く前に戻りたい」と願ったトンネル内で、信じがたい不思議な現象が起こる。走馬灯のようにいつかの映像が脳内を駆け巡るなか、トンネルを抜けて辿り着いた先にあったのは、蝉の声がつんざくように鳴り響く新緑の景色だった。

 状況を理解できないまま向かったのは、かつて亡き夫と出会った思い出の場所。そこに現れたのは、15年前に出会った頃と同じ、若き日の硯駈だった。

 同い年の夫婦だったふたり。しかし、15年の時を遡った世界線で出会ったのは、45歳の高畑カンナと29歳の硯駈だ。ふたりの間に横たわる”時間”と”年齢”の差は、必然的に彼らの会話に奇妙な段差を作りだす。

 突如、現れたカンナに「どこかでお会いしたことありましたっけ」と問いかける駈。「いえ、まだ初めてです」とカンナは返す。その答えは正しいけど、どこか矛盾している。年上の女性相手なのに、心なしかくだけた口調になる駈もまた、その違和感を自然と受け入れていく。

 ふたりのまじめでコミカルな言葉の応酬は、映画のさまざまなシーンで楽しむことができる。特にかき氷屋の行列に並ぶ時間を埋めるカンナと駈の会話は、ずっと聞いていたくなるほど心地いいものだった。後ろに並ぶ女性ふたりが羨ましいくらいだ。

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