幸福とは何の変哲もない日常を思い出すこと
最後に思い出すのは、いつもと変わらない日常の風景だった。そして、何の変哲もない日常を思い出せることこそが、幸せな夫婦生活であったことの証明なのかもしれない。
カンナは映画の冒頭とラストで2回、いつ注文したかもわからない3年待ちの餃子を宅配業者から受けとる。一度目は上手に焼くことができず、フライパンにこびりついた餃子。
二度目が上手く焼ける保証はない。ラストシーンに登場するカンナにとっては初挑戦なので、もしかするとまた失敗してしまうかもしれない。
それでも、きっともう彼女は駈と出会って恋をする前から、人生をやりなおしたいと願うことはないだろう。彼からもらった手紙と15年の幸せな思い出を丸ごと抱きしめながら、以前より少しだけ広くなった家で未来を生きていく。
映画を観た人は、夫婦生活のこれからとこれまでに思いを馳せる。そして、記憶に点在する何でもない一日や他愛のない会話を思い出す時間は、きっと愛おしい。
(文・ばやし)