水川かたまり主演映画『死に損なった男』評価&考察レビュー。“置きにいかない”本気のコントシーンに隠された情熱とは?
text by 前田知礼
空気階段・水川かたまりが初主演を務める映画『死に損なった男』が公開中だ。本作は、タイミング悪く死に損なった売れないコント作家である一平(水川かたまり)の前に、正名僕蔵演じる男の幽霊が現れるというユニークな作品だ。今回は、現役放送作家ライターが本作の魅力を解説する。(文・前田知礼)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】
—————————–
【著者プロフィール:前田知礼】
前田知礼(まえだとものり)。1998年広島県生まれ。2021年に日本大学芸術学部放送学科を卒業。制作会社での助監督を経て書いたnote「『古畑任三郎vs霜降り明星』の脚本を全部書く」がきっかけで放送作家に。現在はダウ90000、マリマリマリーの構成スタッフとして活動。ドラマ「僕たちの校内放送」(フジテレビ)、「スチブラハウス」、「シカク」(『新しい怖い』より)」(CS日テレ)の「本日も絶体絶命。」の脚本や、「推しといつまでも」(MBS)の構成を担当。趣味として、Instagramのストーリーズ機能で映画の感想をまとめている。
苦悩するコント作家が主人公の物語
『死に損なった男』は、田中征彌監督の前作『メランコリック』(2018)同様に、「鉛色の日々を送っていたコミュ障の男が、ある一風変わった出会いから殺しに協力する羽目になる」という物語だ。
『メランコリック』の主人公は、浴場での遺体処理に加担する銭湯アルバイトだったが、『死に損なった男』の主人公は、取り憑かれた幽霊に人殺しをお願いされる売れない構成作家。しかしもこの売れないコント作家・関谷一平を、キングオブコント2021王者である空気階段の水川かたまりさんが演じるというのも面白い。
映画前半で印象的に登場する食べ物、一平が飛び込むための駅に向かう途中に目に止まる「たい焼き」と、一平が幽霊に出会う直前に食べようとしている「コーンフレーク」。死を待つよりほかに方法がない、という意味の「まな板の上の鯉」ならぬ「鉄板の上のたい焼き」だった主人公は、おじさんの幽霊・森口友宏と出会って、牛乳が注がれたコーンフレークのように、作家として日々に潤いと甘みを取り戻していく。