ウザい幽霊おじさんがクセになる
「娘に近づく元夫を殺してくれ。殺すまで俺は消えない」と、一平に取り憑くおじさん幽霊(正名僕蔵)の「ウザさ」は、この映画の面白がりどころのひとつだ。
劇中、お笑いコンビ「ピラティス」の賞レース用のコントを考えているシーンで、パソコンに向かう一平に森口がかける言葉の一部を紹介したい。
「何から考えるんだ?」
「発想のとっかかりは?」
「0から考えて、未だ0のままってことか」
こんな言葉をコントのネタ出し中に、それもつきまとう中年の幽霊から言われると思うと、想像するだけでもおかしくなりそうだ。実際最初は一平も森口のことを怪訝にあしらっていた。しかし、森口にネタ出しに参加し始めたことで、コント作りがどんどん楽しくなっていく。アイデアが生まれ、会話が弾み、展開が膨らみ、あーでもないこーでもないこのほうが面白いとコント台本をブラッシュアップしていく。
劇中、一平は自殺を図ろうとした原因を「夢が叶った先に何もなかったから」と語る。そんな彼が、見ず知らずの中年幽霊と共にコント作りをすることで、その楽しさを再確認して、また前を向いて歩き出す。
終盤のシーン。ライブの打ち上げに作家志望の高校生を呼んだのは、森口との出会いによってコントが大好きだったあの頃の初期衝動を思い出したからなのかもしれない。これから夢を叶えていく彼のために「希望を持って仕事ができる作家になる」という、一平の新たな目標のようなものを感じた。