そこはかとなく漂う三谷幸喜感
田中監督はかつて、三谷幸喜が脚本を務めたシットコム『HR』(2002)を観て脚本家を志し、三谷幸喜と同じ日本大学芸術学部の演劇学科に進んだとインタビューで語っている。だからだろうか、監督の作品からは三谷幸喜作品へのリスペクトを随所に感じ取れる。
例えば、前作『メランコリック』の設定からは、売れない役者がひょんなことからか殺し屋をする羽目になる『ザ・マジックアワー』(2008)を連想し、今作の「自分だけ見える幽霊と協力して目的を共にする」というストーリーからは、落武者の怨霊と冴えない弁護士が手を組んで事件に立ち向かう『ステキな金縛り』(2011)を思い浮かべた。
また、真面目で厳格な元国語教師が作家と一緒にコントを考える、という今作の設定は、稲垣吾郎と役所広司によって映画化もされた『笑の大学』(2004)のようでもある。笑ったことのない検察官とどうしても笑いを入れてしまう喜劇作家による「台本直し」の作業。
お笑いに興味のない堅物親父が徐々に「ネタ作り」に目覚め、夢中になっていく様は『死に損なった男』の台本作りの点描にも重なる。それでいうと、水川かたまりが構成作家を演じるという点からは、奇しくも同じ吉本興業のお笑い芸人であるココリコの田中直樹が構成作家の主人公を演じた『みんなのいえ』(2001)を思い出した。