広瀬すずの煙草を吹かす身振りと鮮烈な赤

©︎2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会
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 大正後期、古き街並みと現代に続く文明の息吹が交わる京都で出会ったのは、駆け出しの女優・長谷川泰子(広瀬すず)と、のちに天才と称される詩人の中原中也(木戸大聖)だった。泰子は20歳、中也は17歳。世間を知らずに虚勢を張る若きふたりは、それぞれの欠けている部分を補うように惹かれあう。

 風来坊のように気ままに生きる泰子に扮したのは、今年、多数の映像作品への出演が決定している広瀬すず。彼女が演じた泰子は、口紅を引かずともどこか艶やか。余韻を漂わせる喋り方も、本作のトーンに合っていた。窓際で煙草を吹かす身振りはいかにも堂に入っており、家の前を歩く中也に「おにーさん」と声をかける無邪気な姿も魅惑的。時代を彩るハイカラな服を着こなす彼女に、中也が自然と惹かれていくのも無理はない。

 そして、そんな泰子に執心しながらも、詩人としての孤独と少年心を宿す若き日の中也を演じたのが木戸大聖。冒頭、雨の中、赤い傘をさして画面に登場するのを目の当たりにした瞬間、心に一輪の花が咲いたような感覚を覚えた。

 中也が持つ傘の赤は、泰子の手のひらに乗る赤い柿、中也がかつて母に編んでもらった赤い手袋のイメージと繋がることで、本作のイメージカラーを成している。自身の才能を信じて疑わない不遜さと泰子との会話に見え隠れする純粋さ。両方を秘めた若き日の中也を、木戸は赤のイメージを要所で纏いながら全身で体現していた。

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