映画に華を添えるキタニタツヤの楽曲

©︎2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会
©︎2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会

 大正時代という言葉だけを聞くと、随分昔の話に思えてしまうが、劇場で映し出された映像にはまったく古臭さを感じない。むしろ、現代の最新技術を駆使して再現された大正ロマンの雰囲気や、泰子と中也がダンスホールでチャールストンを踊るシーンなどは、今の時代から見てもオシャレで目新しさがある。

 目新しさと言えば、主題歌を務めたのが令和のヒットメイカー・キタニタツヤであることにも触れたい。2020年にメジャーデビューを果たしてから、数々のタイアップソングを手がけてきた彼の新曲「ユーモア」は本映画のラストに花を添えている。

 個人的に、本作品の主題歌を担当するのが、まさに令和を代表するアーティストとも言えるキタニタツヤであったことは、大正時代を舞台にした作品のテイストを考えると少し意外だった。ただ、中原中也が残した詩に影響を受けた彼が、『ゆきてかへらぬ』という作品に自身の言葉をちりばめた唄を贈ることは、今の時代にこそ本作品を世に届けようとした根岸監督をはじめとする制作陣の気概とも一致する。

 そして、制作陣の期待に応えるように、「ユーモア」は作品を観た人の余韻に爽やかな風を吹き込んでいく。登場人物たちが最後まで口にできなかった想いを、カイドウの花びらとともに風の便りへと載せながら。

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