ビートたけしと北野武、二つのペルソナ

Amazon Original 映画『Broken Rage』
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 さて、本作にはもう1つ北野武を語る上で欠かせないギミックが登場する。それが「覆面」というキーワードだ。

 例えば前半部分では、ねずみが「覆面」捜査官として裏社会に潜入し、大立ち回りを繰り広げる。そして、後半パートではこの覆面が実体化し、今度はねずみや福田が実際に被ることになる。

 一般的に覆面は、覆面レスラーのように、何者かになりすますために装着されるマスクのことを指す。しかし一方で、覆面は、自らの存在を誇示するための装置でもある。正体を隠しつつ何者かになりすますー。これこそ、覆面の作用なのだ。

 では、この覆面というメタファーが示唆するものは一体なんなのか。これについては、北野武自身が長年被ってきた「ビートたけし」というペルソナが当てはまるだろう。

 実際、全盛期のビートたけしは、しばしばバラエティ番組で「被り物」をして登場することが多かったほか、2005年の映画『TAKESHIS’』でも、芸能界の大物であるビートたけしに瓜二つの役者・北野武がピエロのメイクをして登場するというシーンがあった。

 そういう意味で本作は、いわば「北野武」と「ビートたけし」のペルソナをめぐるメタ的な映画と言えるだろう。

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