映画『劇場版 センキョナンデス』は面白い? 忖度なしガチレビュー。異色の政治ドキュメンタリー【あらすじ 考察 解説】
新聞14紙を購読する時事芸人・プチ鹿島とパリ生まれロンドン育ちの東大中退ラッパー・ダースレイダーが、体当たりで選挙候補者を追う映画「劇場版 センキョナンデス」。2021年の衆院選と、安倍元首相銃撃事件に揺れた2022年の参院選に密着したドキュメンタリー映画だ。今回は「日本のマイケルムーア」と称される異色コンビが監督を務めた本作のレビューを紹介する。(文・寺島武志)
「誰かに伝えたい」よりも「自分が知りたい」を優先
ラッパー×芸人による異色の政治ドキュメンタリー
投票日の前々日に起きた安倍元首相銃撃死傷事件や、ガーシー(NHK党)、水道橋博士(れいわ新選組、のちに体調不良を理由として議員辞職)の当選など、さまざまな出来事が記憶に新しい2022年の参議院議員選挙。しかしながら、その投票率は52.05%。前回より3.25ポイント上がったもののが、それでも投票したのは有権者の半分ほど、過去4番目の低さだった。
国政選挙以上に深刻なのが地方選挙の投票率の低さ。最近では50%を超えることは稀であり、30%台を記録する自治体も現れてきているなど、投票率の低下に歯止めがかからない状況が浮き彫りになっている。
2016年に、公職選挙法が改正され、選挙権年齢を20歳以上から18歳以上に引き下げたものの、18~19歳の投票率は30%ほどであり、全体の投票率を引き下げる要因となってしまっているのが現状だ。もはや「選挙離れ」などといった現象ではなく、国民は政治家への期待など、端から持っていないといった方が近いのかもしれない。
先に述べた参院選についても、どの政党がどのくらい党勢を増したかよりも、安倍元首相殺害によって明らかにされた、自民党と旧統一教会との癒着を糾弾するニュース一色となり、与党である自民・公明両党が過半数を占めたことなど、二の次になってしまった印象がある。
岸田首相が解散総選挙を断行しない限り、衆議院および参議院議員の任期満了は2025年。それまでの3年は国政選挙が実施されない。しかし、旧統一教会問題への鈍い対応や、半ば強引に防衛費増額に伴う増税を打ち出すなど、失政を続ける岸田内閣の支持率は20%台の“危険水域”に落ち込んでおり、任期満了を待たずに解散総選挙に打って出るのではないかという噂も根強い。
本作は、そんな選挙に魅せられ、野次馬根性丸出しで候補者を追い続けるロードムービー。登場するのは、新聞14紙を購読しているという時事芸人のプチ鹿島と東大中退のラッパー・ダースレイダーという異色コンビだ。
主にYouTubeで活躍している2人だが、その行動力の源は、おふざけでもチャンネル登録者数アップなどではなく、純粋な興味。徹底して「誰かに伝えたい」よりも「自分が知りたい」を優先させていることから、ジャーナリズムとも異なる。だからこそ、2021年の衆院選と2022年の参院選において、十数人もの候補者に突撃し、ズケズケと質問を浴びせていく様は痛快ですらある。
しかしながら、取材相手を怒らせたり、重大なトラブルにならなかったのは、2人の知識の深さや行動力はもちろんのこと、その物腰の柔らかさにあるのではないだろうか。本作は、時事ネタをぶった切る絶妙な掛け合いが人気を博し、「ヒルマニア」というコアなファンを持つ2人のYouTube番組「ヒルカラナンデス(仮)」のスピンオフとして企画された。
2人の活動を知り 「彼らは日本のマイケル・ムーアだ」と絶賛するのは、『なぜ君は総理大臣になれないのか』(2020年)、『香川1区』(2021年)などの代表作を持つ映画監督の大島新だ。大島は、異色コンビによるこの破天荒なドキュメンタリー映画のプロデューサーを務めている。