安倍元首相が銃撃事件が勃発
激動の一日を克明にドキュメント
2022年7月8日金曜日。この日からまた関西での選挙取材を予定していた2人は、その前に大阪のホテルで毎週金曜に行っているYouTube配信を始めた。時刻は昼の12時。配信画面に映し出された2人の表情からは、いつもの明るさが消えていた。
その直前に、奈良・西大寺駅前で安倍元首相が銃撃されたという一報が入ったのだ。
状況をよく飲み込めず、沈痛な面持ちで訥々と語る2人。選挙の面白さや楽しさに気付き、「選挙は祭りだ」といって見てきた演説の現場で起きた言論を封殺する暴力。選挙をネタとして笑いに昇華させる2人のスタンスは、銃撃事件を受けて不謹慎だと思われてしまうのではないか。配信を終え大阪の街に出た2人は、この日、自分たちも含め、誰が何をどう考えたかを記録として残そうと決意する。
安倍元首相銃撃事件の報を受けて、街頭演説を中止する候補者が相次ぐ中、敢えて演説を行う候補者もいた。夕方の大阪・梅田駅前。ダースと鹿島の目の前に、辻元清美氏の姿があった。
言論を封殺するような事件が起きたからこそ、それに屈するわけにはいかないと、党の方針に反して選挙活動を再開したのだ。安倍氏とは考え方に違いはあったものの、徹底的に対話を試みてきた辻元氏は、悲壮感漂う表情で、安倍元首相の無事を願う。演説後の囲み取材の中で声を震わせながら「安倍さん、がんばってやという思い…」と話した直後、「安倍氏死去」を報じたニュースが舞い込む。
その報を聞いた刹那に、彼女は絶句する。目が泳ぎ、天を仰ぐ。言葉が出ない。しばしの沈黙の後、涙をぬぐいながら絞り出すように言葉を発する。ダースと鹿島は、その数少ない目撃者であり、そして記録者となった。
あってはならないことではあるが、安倍氏襲撃事件によって、“清き一票”よりも“卑劣な一発”の方が政治を動かす力があることが白日の下にさらされてしまった。選挙という国家的イベントの真実、そして、民主主義とはいったい誰のために存在するのか…。答えの出ない問いを胸に、この先も2人の旅路はまだ続く。
(文・寺島武志)
【作品概要】
監督:ダースレイダー プチ鹿島
エグゼクティブプロデューサー:平野悠 加藤梅造
プロデューサー:大島新 前田亜紀
監督補:宮原塁
撮影:LOFT PROJECT
©︎劇場版 センキョナンデス製作委員会
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