「バウスシアターは今もどこかを航海している」『BAUS 映画から船出した映画館』甫木元空監督、単独インタビュー

text by 山田剛志

音楽ユニット・Bialystocksとしても活動する甫木元空監督最新作『BAUS 映画から船出した映画館』が3月21日(金)より公開される。2014年に惜しまれながらも閉館した伝説の映画館「吉祥寺バウスシアター」をめぐるこの物語は、故・青山真治監督が着々と温めていた脚本を、2022年3月の逝去を機に甫木元監督が引き継ぎ執筆し、完成へと漕ぎ着けた。甫木元監督に作品に込めた思いを伺った。(取材・文:山田剛志)

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大学時代の師・青山真治の脚本と向き合って

甫木元空監督 写真:武馬怜子
甫木元空監督 写真:武馬怜子

―――本作は、1920年代から終戦を経て、2014年に至るまでの日本の歴史、本田家のファミリーヒストリー、さらにはサイレントからトーキーに移行する映画の歴史が折り重なった物語となっています。プレス資料によると、2022年に逝去した青山真治監督のオリジナル脚本の根幹の部分を大事にしつつ、適宜アレンジを加えられたとのことです。どのようなことを念頭に置いてリライトされたのでしょうか?

「青山さんが執筆したオリジナルの脚本は江戸時代から始まる壮大な話で、そのまま撮るのは予算的に難しかったんです。そこで家族の話を重点に置くことにしました」

―――映画は、鈴木慶一さん演じるタクオが井の頭公園のベンチで過去を想起するシーンから幕を開けます。タクオは、2014年に閉館した映画館「吉祥寺バウスシアター」の館主です。

「バウスシアターの閉館が差し迫る中、タクオが公園のベンチに座ってボーっと過去を回想するわけですけど、記憶を呼び起こす過程で重要な役割を果たすのが過去の家族写真です。

個人的に面白いと思ったのは、過去の写真を手がかりに呼び起こされたタクオの回想には、タクオ自身の体験のみならず、家族から聞いた話も入っていて、複数の記憶が混在しているという点です。

写真という平面的なものを手がかりに過去を遡って、自身の記憶と他人から聞いた話を複合することで筋道をつけていくというのは、人が過去を回想する時、あるいは、歴史を語る時に常に起こっていることだと思うんです」

―――記憶はとても曖昧かついい加減なもので、時が経つと自分が直接体験したことなのか、伝聞で知ったことなのか、判然としなくなるという体験には身に覚えがあります。

「人間が過去を回想することにつきまとう曖昧さやいい加減さの面白さみたいなものは、青山版のシナリオにもあって、面白いなと思ったんです。この映画では、そうした記憶のいい加減さを表現するために、張りぼての平面な映画館の中に入っていくとか、演出面や美術面でも、随所であえて嘘であることを隠さないようにしました」

―――青山版の脚本をリライトするにあたり、特に重要性が増したキャラクターはいますか?

「リライトをするにあたり、青山版では3人だったキャラクターをまとめて1人にする、といった作業も行なったのですが、特に峯田和伸さん演じるハジメはそうした過程で重要性を増していったキャラクターです。

原作者の本田拓夫さんにお話を伺ったところ、人から聞いたエピソードも本に書いたとおっしゃっていて。伝記という形ではあれ、執筆する過程でエピソードが盛られたり、記憶違いで異なる方向に曲がっていくこともあったと思うんです」

―――先ほどのお話に通じますね。

「自分たちが教わってきた歴史って、実はそのぐらいいい加減なものなんじゃないかっていう思いがあって。複数の人物が合体して1人になるっていうのも、そういう考えのもとではあり得ると。もちろん原作の核心部分は大事にしつつ、ですけどね」

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