中原昌也からマリネッティまで。引用の織物としての映画
―――複数の記憶のパッチワークが歴史を構成するというお話に通じると思うのですが、この映画では随所で既存のテクストが引用されますね。タクオがベンチで呟くとあるセリフには中原昌也さんの言葉を引用されています。イタリア未来派(マリネッティ)からデス渋谷系に至るまで、この映画では出自を異にする複数のテクストが独自の仕組みで組み合わされています。
「そのあたりは青山さんの影響かもしれません。学生時代、青山さんが監督した『FUGAKU1/犬小屋のゾンビ』(2014)という40分ほどの作品に助監督で付いたのですが、その時に「どうやってこの脚本を書いたんですか?」と訊いたことがあるんです。そしたら、「twitter」って言われて(笑)。
twitterの名言botをサンプリングして、それを組み合わせて脚本を作るのも面白そうだな、といったことを言っていたんです。今回、脚本をリライトするにあたり、ふとその言葉を思い出して。
人から聞いた言葉を、さも自分が思い付いたかのように言う人がいるじゃないですか。でも、そのくらい記憶って曖昧なものだと思う。今回、どんな言葉が映画の中に入ってきてもいいと、自由な気持ちを持とうと意識していたところがあります」
―――引用はセリフのみならずキャスティングにも見受けられると思いました。具体的に言うと、青山真治監督作品からの引用です。主演の染谷将太さんは『東京公園』(2011)に出演しています。屋台の店主を演じている光石研さんは、『Helpless』(1996)で演じた役と同じく片腕がありません。
「染谷さんは『贖罪の奏鳴曲』にも出ていましたね。今回、青山さんがすでに決めていたキャストの方もいらしたので、そこを引き継ぎつつキャスティングを進めていきました。
光石さんが演じてくださった役に片腕がないのは、戦場に行けない人であるということを表していて、もちろん『Helpless』を想起させるわけですけど、最初から青山さんの何かを引用しようというよりかは、みんなで脚本を突き合わせて話し合う中で自然と出てきたアイデアだったと思います。とはいえ、後になって青山作品との符号に気付いて、背筋が伸びる思いをしたのは事実です」