「この映画はストレンジャーたちの物語」
サブタイトルが示唆するもの
―――タイトルについても伺わせてください。「映画から船出した映画館」という言葉はユニークですね。これは元々青山監督のアイデアだったのでしょうか?
「いえ、これは映画が完成した後に、原作者の本田さんがサブタイトルを付けたいとおっしゃって。本作のプロデューサーであり、バウスシアターと縁の深い樋口泰人さんが自身の会社(boid)で出版したバウスの書籍のタイトルからもらったんです」
―――甫木元監督は、「映画から船出した映画館」というサブタイトルにどのような思いを込めましたか?
「この映画はストレンジャーたちの物語だと思うんです。バウスがあった吉祥寺という街の出自からしてそうです。元々吉祥寺というお寺が現在の文京区にあったのが、江戸の大火で燃えてしまって。お寺の周囲にいた人たちが、現在吉祥寺と言われている場所に移住してきた。吉祥寺の歴史は流れ者たちが作ってきたわけです。
バウスシアター最終日の挨拶で樋口さんがお話しになったことは、青山さんもよく言っていたことでした。劇場という場所がなくなっても、そこに集っていた人は残るから歴史が途絶えることはない。全てが終わったように見えるけど、そこから始まることもあるし、何事も淡々と続いていく。バウスシアターは今もどこかを航海している。このサブタイトルにはそのような意味合いがあると思います」
―――とても腑に落ちました。この映画でも描かれていますが、バウスシアターの前身である井の頭会館は、映画の上映以外にも落語の寄席などを催していた。そして、そのスピリットはバウスシアターにも受け継がれていた。その点、映画というジャンルから船出して唯一無二の場所になっていったバウスシアターを表現するタイトルでもあると、個人的には思いました。
「元々日本には映画館という場所はなくて、劇場を借りて色々な作品を上映していたわけですよね。バウスシアターの歴史を調べていてすごく面白かったのは、誰かが意図している訳ではないのに、映画以外のジャンルが交差する場所になっていて。なんか公園みたいだなと思ったんです。
公園で音を録っていると、いろんな声が聞こえてくるんですけど、本当にカオスなんです。公共空間にいろんな物が入っているじゃないですか。映画が産業として確立して以降、映画館は映画を上映する場であるという固定観念が生まれましたが、それ以前は何でも入り放題だったと思うんですよね。その混沌とした感じっていうのは、すごく面白い。この映画は、映画館という場所を広い視野で見直すきっかけにもなるんじゃないかなと思っています」
―――元々は青山真治監督の企画だったわけですけど、そんな映画を複数のジャンルを股にかけて活動している甫木元監督が撮ったというのはとても面白いですね。運命的なものを感じます。
「そうですね。僕自身、すごい縁だなっていうのは感じていますね」
スタイリスト
松枝風
ヘアメイク
嵯峨千陽
(取材・文:山田剛志)
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