「理想的なプログラムになりました」大阪アジアン映画祭プロデューサー・暉峻創三が語るアジア映画の現在。単独インタビュー

text by 加賀谷健

「第20回大阪アジアン映画祭」が2025年3月14日(金)から3月23日(日)まで開催される。今回は、映画祭のプロデューサーを務める暉峻創三さんにインタビューを敢行。映画祭のオープニング作品の選考理由やアジア映画の現況、さらに、インディ・フォーラム部門における変化についてじっくりお話を伺った。(取材・文:加賀谷健)

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【著者プロフィール:加賀谷健】

コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修

クラシック音楽を専門とする音楽プロダクションで、企画・プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメン研究」をテーマに、“イケメン・サーチャー”として、コラムを執筆。 女子SPA!「私的イケメン俳優を求めて」連載、リアルサウンド等に寄稿の他、CMやイベント、映画のクラシック音楽監修、解説番組出演、映像制作、 テレビドラマ脚本のプロットライターなど。

2025年から、アジア映画の配給と宣伝プロデュースを手がけている。
日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。

イメージを覆す中央アジア映画の現在

暉峻創三 写真:武馬怜子
暉峻創三 写真:武馬怜子

――第20回大阪アジアン映画祭は、クィア映画、音楽映画、2年連続でタイ映画特集などなど、全67作品の多彩なラインナップです。中でも目玉作品の一つ、カザフスタン映画『愛の兵士』がスペシャル・オープニング作品です。あるいは、『セールス・ガールの考現学』が話題だったジャンチブドルジ・センゲドルジ監督の新作モンゴル映画『サイレント・シティ・ドライバー』がコンペティション部門に入り、中央アジア映画の現在地があざやかに浮かぶプログラムが魅力的です。

暉峻創三(以下、暉峻)「大阪アジアン映画祭の歴史的振り返りで言えば、『セールス・ガールの考現学』は、コロナ禍で開催された2022年のコンペティション部門作品でした。モンゴル本国でも公開が決まっていましたが、現地の感染状況を考慮して上映されませんでした。そうした経緯で大阪アジアンがワールド・プレミアになり、上映直後から話題になりました。モンゴル映画というと大草原のイメージを強く持っている方が多いかもしれませんが、ファニーで笑えるところもある都会生活が語られていたことが画期的だったと思います」

――日本配給の宣伝ポスターがユニークで、それを記憶している映画ファンも多いと思います。

暉峻「同作を配給したザジフィルムズの宣伝が、結果的にうまくかなりヒットしました。センゲドルジ監督の最新作『サイレント・シティ・ドライバー』は、ポップな前作とのムードの違いに驚く超硬派な映画です。作家的な懐の広さを知る上でも観ていただきたいです。

ちょうど今年の大阪アジアンが閉幕する前後で「日本モンゴル映画祭」が新宿で開幕します。昨年の大阪アジアンでグランプリを受賞した『シティ・オブ・ウインド』が上映されます。モンゴル映画はそこまで製作本数が多くありませんが、タイプが違う作品が選定されているので楽しみです。大阪アジアンで上映する作品とモンゴル映画祭のバラエティに富んでいるラインナップを合わせると、モンゴル映画の全体像が見えてくる気がします」

――モンゴル映画祭で上映される作品に『獄舎Z』というモンゴルリアン・ゾンビ映画があります。私は日本配給と宣伝プロデュースを担当していますが、映画祭の中でも異色作です(笑)。極寒のモンゴルでは「ゾンビも走らなければ凍ってしまう」というコピーで、モンゴル映画史上初のゾンビ映画として宣伝しています。

暉峻「『獄舎Z』は気になる作品です(笑)。完全に娯楽映画として作られているわけですね。『セールス・ガールの考現学』を上映した時にプロデューサーの方と話したのが、モンゴル映画の海外の伝わり方には現地とのズレが多少あったということです。

現代のモンゴル映画だと大草原での遊牧民生活を描いた作品が多数派ではないはずなのに、その部分だけがフィーチャーされてきた。その点でも『セールス・ガールの考現学』以降、新たなモンゴル映画のイメージが伝わりました。今回の『サイレント・シティ・ドライバー』を見てもらうとまた違う側面を感じられると思います。モンゴル映画祭での『獄舎Z』も同様の文脈ですね」

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