「しばらくウォッチする価値がある」カザフスタン映画をオープニングに据えた理由

暉峻創三 写真:武馬怜子
暉峻創三 写真:武馬怜子

――2012年の大阪アジアンでサプライズ上映された『タタール大作戦』も記憶に新しいです。

暉峻「『タタール大作戦』もステレオタイプなイメージとは違う映画です。ミュージカル的な演出もあり、完全に娯楽ノリの映画でした。モンゴル映画でこんなことができるのかと驚いたものです。配給がついてくれると良かったのですが、あの当時はつかなかったです。『セールス・ガールの考現学』以降の流れとして、『サイレント・シティ・ドライバー』も日本配給が決まっていくことを期待しています。

『シティ・オブ・ウインド』もまだ配給がついていませんが、ヨーロッパ的なアート映画のエレガンスがある素晴らしい作品です。同作のラグワドォラム・プレブオチル監督は、次作として日本の相撲ネタを考えているようです。昨年の上映時はちょうど大阪で大相撲の場所でした。映画祭開催中、監督は次回作の下調べを行ない、上映には力士がいらして客席で目立っていました。大阪アジアンの上映史上忘れられない光景です(笑)」

――それは壮観ですね(笑)。同じ中央アジア映画として、今年のスペシャル・オープニング作品にカザフスタン映画『愛の兵士』を選んだ理由を教えてください。

暉峻「『愛の兵士』も『セールス・ガールの考現学』のような効果を期待している作品です。アジア映画を追いかけてきた者として、カザフスタン映画はしばらくウォッチする価値があると思っています。カザフスタンから寄せられた応募作、あるいは他の映画祭で観た作品を総合すると、アジアで今最も面白いことが起き始めている国かと思います。

映画史的には、カザフスタン映画も国際映画祭受けするアート映画やシリアス路線ばかりが知られてきました。一方でエンターテインメントとして楽しめるハイクオリティな作品も実はたくさん作られています。

今年のスペシャル・オープニングに据えた『愛の兵士』は、全編ミュージカルです。例えば、インドのミュージカル映画では、ドラマパートに歌って踊ってのミュージカルシーンがいきなり挿入されます。『愛の兵士』はミュージカルシーンとドラマとが密接に結びついています。ジャック・ドゥミの『シェルブールの雨傘』(1964)に近い。

監督のファルハット・シャリポフは、日本で初紹介になる監督ですが、実際のところ、前作『SCHEME』がベルリン国際映画祭で受賞歴があるなど、国際的には話題の監督です。日本ではなぜか映画祭からも商業公開からも漏れていたようです。その意味でもあえてコンペティション部門に入れず、目立つ扱いでオープニングにしました」

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