「日本映画の新しい傾向として語られる」インディ・フォーラム部門
――『「桐島です」』はクロージング作品でありながら、インディ・フォーラム部門作品でもあります。これは何か意図があるのでしょうか?
暉峻「クロージング作品は毎年特定の部門に所属させているわけではありませんが、今回の場合、インディ・フォーラムに所属させた方が、今年の面白い傾向が見えやすいかと思いました」
――今年のインディ・フォーラム部門は、ベテラン勢が大活躍という新たな傾向もあります。
暉峻「ご指摘のように、これまでの大阪アジアンをよく知っていただいている方からすると、インディ・フォーラム部門は新人の登竜門的な側面があり、これから商業映画界で羽ばたいていく立ち位置の若い監督作品が並びます。今年もその傾向で語るべき作品が何作も入っていますが、一方で高橋監督だけでなく、足立紳監督の新作映画『Good Luck』や平松恵美子監督の『蔵のある街』があります。お二人とも商業映画の世界で既に名声を確立され、活躍されてきたベテランです。
足立監督は、この新作が完成するのと同時に、テレビ大阪で連ドラを手掛け、大変お忙しいと思います。平松監督は、山田洋次門下生で、松竹作品を撮ってきた方です。もっと大きな座組でも作れるはずなのに、いずれの映画も間違いなくインディーズ映画です。ベテラン監督がそういう作り方をすることは、日本映画の新しい傾向として語られると思います」
――もう一人気になったのは西田宣善監督です。初監督作『また逢いましょう』が入っていることに大変驚きました。
暉峻「そこに驚ける人は相当な映画的知識だと思いますが(笑)、西田監督というのも何だか、まだ言い慣れない気がします…」
――西田監督はプロデューサーとして有名な映画人ですね。
暉峻「プロデューサーであり、時に配給会社であり、出版の方でも「フィルムメイカーズ」シリーズ創刊など、元々は『キネマ旬報』の編集者です。僕が西田さんに知り合ったのもその頃です。大昔に自主映画を撮っていたことは知っていますが、どういう経緯からいきなり商業性のある座組で作品を撮り、映画監督になっていたのか……。
ポスプロが終わる段階で作品を見せてもらいましたが、予想を超える出来栄えでした。それでこの作品もインディ・フォーラム部門に加わってもらいました。世代的にはベテランですが、映画監督としてのキャリアはピカピカの新人監督です(笑)」
――その意味でも今年のインディ・フォーラム部門は、ベテラン勢プラス新人部門も兼ねているわけですね(笑)。
暉峻「そうですね。幅広いインディ・フォーラム部門になりました。一方で、熊本に舞台を置く作品『レイニー ブルー』は、これまでのインディ・フォーラム部門の最年少監督記録です。監督の柳明日菜さんは、現在21歳。映画を撮影している時はまだ現役高校生。これまた蓋を開けてみるとグイグイ引き込まれる作品です。主人公が、笠智衆の大ファンで、映画監督としては山中貞雄を尊敬している女子高校生という設定です」
――そのような渋い趣味の高校生が日本にいるわけですね(笑)。
暉峻「小津安二郎が大好きだとわかる映画でもあり、笠智衆さんのお孫さんが出演しています。他に高良健吾さんや渡辺紘文監督が出演。初長編作ですが、見る気にさせるフックは多い作品です。渡辺監督作に柳さんが出演している繋がりがありますが、単に人脈で映画を作ったというより、役者として現場で相当な学びを得て監督になったことが感じられます。撮影は長回し好きで、リハーサルに時間をかけて撮り直していると現場を想像しています。本格的な全力投球の監督デビュー作ですね」
(取材・文:加賀谷健)
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