肯定しにくいキャラクターを魅力的にみせる演者たちの手腕
この物語では、個人の力だけではどうにもならない環境が原因で犯罪に手を染めてしまったり、心を病んでしまったりする人々が描かれている。
感情移入がしづらいキャラクターも多く登場するなか、窃盗団のドライバーを引き受けてしまう和正をチャーミングに演じた高橋文哉や、娼婦として働く美羽の複雑な胸中を芝居に宿した西野七瀬が果たした役割は大きい。
和正は、軽薄な言動が目立つものの、家族のために道を踏み外すことも厭わない、アンビバレントな人物である。そんな和正の家族思いでピュアな一面と、楽に稼げる手段を選んでしまう心の弱さを、高橋の演技は絶妙に表現していた。
西野が演じる美羽もまた、決して肯定することはできない選択をしてしまう。それでも、多聞と和正に出会ったことで、沈んでいくしかなかった底無し沼の人生から抜け出す意思を見せる。2人が再生する過程を最後まで描ききったのは、映画ならではのアイデアだ。
そして、誰にも真似できない好演を見せてくれたのが、多聞を演じたシェパード犬のさくらだろう。「なんでわざわざこんなダメな人のところに来たん?」と美羽が多聞に問いかけるように、痩せ細っても気高く走りつづけるその犬は、道ゆく土地で出会う人々の孤独を嗅ぎ分けて、ふらっと彼らの目の前に現れる。まるで人間の心を理解しているかのような仕草を見せる多聞を、さくらは忠実に体現している。
特に自らの役目を終えたと悟ったときに、目指すべき方角へと迷いなく進んでいく凛とした眼は、実際に原作小説を読んでいたとき脳裏に浮かんだ多聞と重なった。