2025年に紡がれた意義
この映画が一貫して描いているのは、実際に起きた出来事を語ることの意義だ。多聞の奇跡のような冒険だけではなく、東北や熊本で起きた大地震もまた、世代を越えて語り継がれるべき出来事だから。
現実に起きた出来事を風化させないために語ること。過去の記憶だとしても、語り継ぐことによって、人々は過去の出来事を今も目の前に横たわる現実として受け取ることができる。
この物語の主人公・多聞は、まさに人によって語られる象徴のような存在だ。和正の母には「カイト」と呼ばれ、美羽には「レオ」と名付けられるように、ともに過ごす人によって多聞の名前も変化していく。
それでも、一匹の犬と過ごした僅かな時間は、彼らに刻まれた共通の記憶であり、それぞれの記憶をつなぎ合わせることで、多聞が駆け抜けた壮大な運命を辿ることができる。
映画『少年と犬』は、途絶えることなく語り継がれてきた出来事と対面するきっかけとしても、重要な作品である。多聞の冒険の背景に想いを馳せる時、この物語が2025年に紡がれた意義に気付くことができるだろう。
(文・ばやし)
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