厚みのあるコミュニケーション手段としての手紙

原田知世
原田知世【Getty Images】

 保が妻のために書こうとするラブレターは、本作において一番の見どころでもある。劇中、彼の硬筆による筆圧を観ていると、心がじん、とする感覚を覚えた。とにかく必死で無骨な様子がなんともいじらしく、おじいちゃんの域の年齢なのに鶴瓶の見た目と相まって、保が可愛らしく見えてくる。それほど保の誠実な人柄が現れていたとも言える。そういえば皎子は初めて保の握った寿司を食べたときに

「心ってほんまに味に出るんやね」

 そう言いながら泣いていた。当人から生み出される“何か”というのは、本質を浮き彫りにするのだ。

 ふと自分は最近、いつ手紙を書いただろうかと振り返る。母親や友人にメッセージカードや、一筆箋で簡単に書くことはあるけれど、長文の手紙は……ああ、昨年、友人の卵巣がんが発覚した際に書いたくらいだ。そんな緊急事態でもなければ筆を取らなくなっている。最近のコミュニケーションといえば、電話も憚られるようになり、LINEやメールで済ませるようになった。でもそれだけで心底にあるものは、伝わるのだろうか。相手を思い、文字をしたためる行為こそ、厚みのあるコミュニケーションだと、背中を丸めて手紙を書く保に教わる。

 この手紙を渡すタイミングをクリスマスと設定していることも良い(その理由は劇場で)。ここ数年のドラマや映画やタイプリープする題材が多く、そんなに現代に不服があるのかと勘繰ってしまうほど。そんな作品ばかりを観ているせいか西畑夫妻の間で交わされる、ほんの少しだけ先のスペシャルデイ=近い未来を約束できるのは愛だなあとしみじみした。

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