映画祭に足を運ぶ観客が価値を見出すものとは?
――今年は大阪万博に連動して大阪アジアン映画祭が2回開催されます。1年間で2回開催するというのはとてつもない作業だと単純に想像しますが……。
暉峻「心の中の半分は次の映画祭のことを考えています。3月開催はインディ・フォーラム部門で名声を築いた監督たちの作品が上映できたことで、ベテラン監督たちが自分たちにとっても重要な映画祭だと認識してくれると嬉しいです。コンペティション部門では、これから台頭してくる世界の監督を紹介してきましたが、9月開催はベテランの日本人監督たちも応募してほしいと考えています」
――9月開催の具体的なイメージはありますか?
暉峻「まだ作品応募を受け付けていないので、あらかじめ具体的なイメージがあるわけではありません。ただ一つ課題があります。例えば、釜山国際映画祭は常時30スクリーン規模で回っていますが、大阪アジアンは日によっては1スクリーンになるくらい少ない会場数です。素晴らしいクオリティの作品が数多く応募されているのに、スクリーンが埋まっているから落選にしなくてはいけない状況が続いているのは、映画祭の発展成長を考える上でも由々しきことです。
一方でコロナ禍でリアル開催をするあらゆる努力をしていた数年前を思い出しての教訓ですが、はっきり意識するようになったことがあります。オンライン化した映画祭がたくさんありました。大阪アジアンでも過去作を名画座的にオンライン上映していましたが、新作上映についてはオンライン化せずに上映を続けました。オンラインというのはある種、映画祭が万能の存在であるという幻想を抱かせます。
リアル開催はあらかじめ押さえてあるスクリーン数と上映時間枠でピッタリはまるようにしか作品選定できない絶対条件があります。オンラインは作品の出来が良ければ何作品でも何回でも入選作として配信できます。しかしそうなると映画祭が万能の存在になり、配給業者が必要なくなってしまいます。作品をメインで上映するのはあくまでも民間の映画会社であり、映画祭は作品がこの先羽ばたいていくきっかけになるためのステップボード的存在であるべきです。
言い換えると、映画祭にとっていちばん重要なのは、選ぶということです。一見たくさんの作品が並んでいる方がお客さんに喜ばれるかと思いきや、そうではありません。ある一定の場所に収まるよう作品数が絞り込まれ、現実に映画館を予約してある日数がフィジカルな制約としてあるからこそ、選ぶということを真剣に考えねばならない。映画祭に足を運んでくださる観客が価値を見出すのは、そこで上映されている作品が厳正に選ばれたものなのだという事実にほかならないと思うようになりました。
大阪アジアンの課題としては他にもクラシック映画上映があります。最近はアジア作品もデジタル・リマスターが盛んになり、さまざまな映画祭でクラシック映画の上映をやっています。大阪アジアンは会場数が限られている中で少しでも新作を優先しているため、ごくわずかしかクラシック作品の紹介ができませんでした。9月開催はアジアのクラシック作品を紹介する余地はあるだろうと思います」
――クラシックというわけではありませんが、個人的には2022年の大阪アジアン映画祭コンペティション部門に入ったタン・チュイムイ監督作『野蛮人入侵(原題)』を今年、日本配給・宣伝プロデュースするため、初長編作『愛は一切に勝つ』を含むマレーシア・ニューウェーブ作品を一挙上映してほしいです。
暉峻「『愛は一切に勝つ』は、デジタルで撮影している作品ですが、『野蛮人入侵』を観た観客なら、絶対に初期作を観たくなりますよね」
――昨年はミュウミュウ「女性たちの物語」第27弾作品としてタン監督の短編作品が日本で上映され話題になりました。
暉峻「タン監督にはミステリアスな魅力があります。後にロッテルダム国際映画祭でグランプリも受賞した『愛は一切に勝つ』は、僕がプログラミングを担当した東京国際映画祭アジアの風部門で「マレーシア映画新潮」として選びました。初めて出会った彼女の作品でしたが、見るなり新しい波がマレーシアに始まったことを確信しました。でも上映を実現するのが大変だったことを覚えています。『野蛮人入侵』は、そこからさらに成長したタン監督の最新の境地を見ることができます」
――『タレンタイム〜優しい歌』日本公開が話題だったヤスミン・アフマド監督以降のマレーシア映画の新たなムーブメントが盛り上がることを期待しています。
暉峻「ヤスミン監督ブームに始まり、マレーシア映画ファンがじわじわ増えているのは感じられます。タン監督の場合、ヤスミン監督ほどまだ名声を築いていませんが、今回のロードショーを機会に幅広いファン層に見てもらえると思います。何より大阪アジアン映画祭が理念として掲げてきた「大阪発」から全国公開に繋がることでさらなる価値を生み出していくことはありがたいことです」
(取材・文:加賀谷健)
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