物語の背景にある悲しみの色
『片思い世界』が作られた背景には、悲しみの色が何滴も混じっている。
それでも、すべてが悲しみに染まった世界ではないと、映画を見終えた人であればわかるはずだ。実際のところ、特別な絆で結ばれることがなければ、3人がここまで仲を深めることもなかったかもしれない。
暗い海を進んでいく船にとって、灯台の明かりは陸に帰ってくるための道標となる。そして、幼い頃に大切なものを失った3人にとって、身を寄せ合って暮らしたあの時間と場所は、迷うことがあっても決して失われることなく、心を内側から照らしてくれた常夜灯だった。
姿が見えなくても、声が聞こえなくても、想いは届くことがある。悲しみは世界を染め上げるだけではなくて、人生を彩るための絵の具に使ったっていい。自分なりの心地いい世界を作るのに、誰かの許可を得る必要はない。
そんな願いが込められた物語がほのかに灯した確かな光は、思っているよりもずっと遠くのほうまで未来を照らしてくれる。願わくば、今も現実世界のどこかでひっそりと耳を澄ませている人々にも、この物語が届きますように。
(文・ばやし)